第35話 「 反撃 」
リンから分け与えられた魔力を利用して、各々に呪文を唱えた俺とモジャ。
‥だが、何も起こる気配がない。
リンは呆れ顔で俺たちを見つめ、小さくため息をついた。
そんな俺たちの様子を見て、ドゥンケルはニヤリと薄笑いを浮かべながら、ゆっくり二歩、三歩と近付いて来る。
「人間ごときに何ができるというのでしょう。
甘く見てもらっちゃあ困りますねぇ! サルジュとあなた達、まとめてリーハの餌にしてやりましょう!」
不自然な抑揚をつけながら言い放つと、杖先をこちらに向け、フンッと鼻を鳴らした。
「何ができるかはわからない。でもな、リンの魔力はすごいんだ。それは確かだっ!」
「そうですぞっ!」
俺とモジャは声を張り上げた。
「ま‥ まあね。二人とも、そんなはっきり言うと照れるじゃなぁい‥ 」
指に髪の毛をクルクル巻き付けながら、はにかむように呟くリン。
ドゥンケルは意地の悪そうな目つきでリンを一瞥した。
「ホッホッ!それなら見せてもらいましょうか。そのすごい魔力とやらを。
ただし、その前にリーハに食われないことを‥‥‥ 」
ブブブブブゥゥゥゥゥゥンッ‥‥‥
ドゥンケルが言いかけた言葉をかき消すように、突如響いた重低音。
どこか間が抜けたような、どこか懐かしい響き‥ 。
「な、何の音?」
リンは慌てて杖を構え、俺とモジャは顔を見合わせた。
その鈍い音が洞穴に響き渡ると同時に、どこからか硫黄のような臭いが漂ってきた。
「な、なんでしょう、この悪臭は‥ く、く、臭い‥ 」
ドゥンケルが顔をしかめながらローブで鼻を覆った。
「ぷ、ぷはっ‥ 」
強烈な臭いで、リーハに捕らえられているサルジュが目を覚ました。
「これは!どうやらわしの呪文が効いたようですぞ!」
モジャは瞳を輝かせ、声を弾ませた。
呪文を唱えてから少しの間を置いて、やっと呪文が効いてきたようだ。
「そうか。じゃあそろそろ俺の呪文も‥ ?」
呪文の効果を確かめる為に、魔蛇リーハへと目を向ける。
すると、紫色の大蛇は一瞬プルルッと身震いしたかと思うと、見る間にその巨体がシュルシュルと縮み始め、うねりながら形を変えていくではないか。
抗うように大きく口を開き舌先を振るわせながら、首を左右に振るリーハ。
しかし、抵抗虚しく、その姿はどんどん縮んでいく。
「よしっ!やったぞ!」
俺とモジャはハイタッチを交わし喜び合った。
残念ながら、致命的なダメージを与える程の威力はないのだが。
「よくも!馬鹿にしおってからに! そんな子供じみた術など鼻クソも同然でしょう。私の力を思い知るがよいでしょう!
フェルス!フェルス!フェーーールスッ!!」
ドゥンケルが杖を掲げ呪文を唱える。
その隙に、リーハから解放されたサルジュが俺達の方へ駆けてきた。
が、次の瞬間、洞穴の壁、地面の岩が揺れ出した。
グラグラ、ガタガタ‥ と。
「ぬぬぬっ!?」
「キャッ!」
「サルジュ、おいで!」
俺たちは互いに体を支え合う。
崩れた岩の塊が、吸い寄せられるようにドゥンケルの周りへ集まっていく。
「フラム!ヘレッ!!」
ドゥンケルが続けざまに呪文を唱えると、複数の岩の塊が炎の塊へ変化する。
この狭い空間で見境なしに攻撃をしかけてくる。
崩れ始めた岩壁、幾つも炎の球。
「ここで地獄の苦しみを味わうがいい。この洞窟がお前達の墓場となるでしょう!」
ドゥンケルから放たれた炎の球は、俺たちの方へ向かって速度を上げる。
それを阻止しようと、サルジュが両手を頭上に掲げながら叫ぶ。
「グラーキエス!グラーキエスッ!」
サルジュが氷の玉を出し、素早くリンが杖先で引き寄せる。氷を水のカーテンへと変化させ、炎の球を包み込んで消そうと試みる。
「素晴らしい連携プレー!さすがはリン殿!」
興奮気味にモジャが声をあげる。
しかし、その炎は勢いを落とすことなく、次第に大きさを増していくばかり。
防戦の一方で、このままでは不利な状況だ。
洞穴の中が灼熱と化していく。
「丸焼きになるのも時間の問題でしょう! ホッホッ!
では、私とリーハはお先に失礼しましょう」
ドゥンケルはそう言うと、手のひらサイズになったリーハを抱え、ローブを一振りした。
すると、現れた灰色の煙に巻かれるようにして、一瞬で姿が消えた。
崩れた岩壁で出口は塞がれ、まさに袋の中のネズミ状態の俺たちだけが取り残された。
「逃げ道がないですぞ‥ 」
モジャは、サルジュを炎から守るように抱き寄せながら呟いた。
「灼熱地獄だな‥ 。ここままじゃ、酸欠になっちまう」
「そうね。この場所は危険だわ‥ 。なんとかしないと‥ 」
リンは青ざめた表情で一度深く深呼吸をした。
( ‥‥大丈夫。私が皆を守ってみせる)
リンは杖を頭上へ構え、声高らかに唱えた。
「リン・クヴェレの名において、精霊達の力を借り受ける。我らを聖なる源へ導きたまえ!!!」
次の瞬間、俺たちの足元から天井に向けて、噴水のように水が吹き出してきた。
「わ、わわっ!なんだこりゃっ!?」
俺とモジャ、サルジュは、足をジタバタさせた。
リンは冷静に杖を回し、その水を操るように螺旋を描いた。
すると、水はベールのような膜となり、俺たちを包み込む。その感触は、ゼリーのように心地良い。
「少しの間、我慢してね」
リンの声が聞こえたと思うと、ゼリー状に包まれた俺たちはまるで掃除機に吸い込まれるように、地面とも暗闇ともわからない不思議な空間の中を高速で移動し始めた。
意識が朦朧として‥ 冷たい感触‥ 水の音‥ 人魚‥ ?
茜色の髪がユラユラと‥なんて綺麗なんだ‥‥
俺は、意識を失った。
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