第26話 「 変化 」
「 ‥ リン、俺達がついていればこんな姿にならずに済んだのに‥ 守れなくてごめん」
俺は、巨大芋虫の頬(と思われる場所)を優しく撫でながら言った。
紫色の表皮から、生温かく湿った感触を感じながら、リンの顔を思い浮かべ目頭が熱くなる。
「魔物の呪いであれば、わしや勇者殿ではどうすることもできぬ‥ 。リンは芋虫のままじゃ‥ 」
モジャがうなだれながら呟いた。
その直後。
「ーーっんなわけないわよぉっ!このリン様がっ!」
威勢の良い声が響いたのである。
その声が、芋虫から発せられてはいないのを察知した俺は、瞬時に巨大芋虫から後退り、辺りを見回しながら言った。
「この芋虫は、リンじゃないのか?」
「あったり前じゃないのっ! 上を見なさいよっ!上をっ!」
俺とモジャが見上げると、巨大芋虫のすぐ隣に立つ大木が目に入った。
そして、その幹から伸びる一際太い枝に、胴体の部分を白い糸のようなもので巻かれ、吊らされているリンの姿があった。
「この芋虫は魔獣なのか?こいつがリンをぐるぐる巻きに‥ ?」
「 ‥ わからない。あっ!と思った時にはもう宙吊りになっていたのよ」
「リンが魔法を使えない程、一瞬の出来事だったのですな」
「そうなのよぉ。とにかく、早くここからおろしてーーっ」
リンは足先をバタつかせながら叫んだ。
一方、芋虫はまったく動いていない。眠っているのだろうか?
「よし、まずはこの芋虫を退治しようか?」
「勇者殿、あせってはなりませぬ。あの赤い針のような体毛には毒があるもしれませぬぞ」
モジャに言われて芋虫の体をよくよく見ると、毒々しい紫色の表皮を守るように、短く尖った毛が見えた。鮮やかな赤い色彩には、危険な毒の気配が漂っている。
リンのちょうど真下が芋虫の頭部分。
刺激を与えた拍子に、その毒針で攻撃される可能性がないとも言いきれない。
ふと脳裏に、バンダバ様の言葉がよぎった。
「お主に授ける " オンビンリョク " はな、ふりかかるアクシデントを自らの力で穏便に解決するたびに成長するちゃい。
オン・ビン・リョク‥ お主だけの特別なスキルちゃい」
今の俺には、そのスキルがまだ発揮できていない。使えるのは、俺とモジャの剣と力と知恵だけだ。
ひらめけーー俺。
ひらめけーーー俺。
‥ よし。
俺は深く深呼吸をして、地面に座る。
左手でズボンのポケットをまさぐると
取り出したソレに、指で優しく触れる。
「勇者殿っ? 何をするおつもりか??」
「ちょっと!? 勇者!まさかまた‥ っ?!」
‥ 今の俺には、モジャの声も、リンの声も届かない。
この静寂な森の中で、俺に届くのはこの声だけ‥
「こん晩ミコミー! みんな、元気?
この世界が変わっても、願うのはみんなが平和でハッピーであってほしいってこと。
今日は勇気が湧いてくるゲームをしちゃうよ!
『虫コロランドの冒険』!
これはね、迷い込んだ虫達の世界から脱出するゲーム。
このゲームでは虫達が巨大なモンスター!!
そこからどう脱出するかって?
まずは相手をよーく観察するの。
人間同士でも相手の気持ちを考えることって大切でしょ。 虫だって、同じ " 生き物 " 。
気持ちが無いわけではないんだよ。
虫達とバトルしながらアイテムを探して脱出するよ。
それじゃあ行ってみようー!
いざ進めーーーレッツムボーンーー!」
よしっ!! ミーコパワー充電完了!
今日のミーコはてんとう虫コスプレ。可愛かったなぁ〜。
ミーコは『虫コロランド』、俺は『芋虫ランド?』 で頑張るよっ!
ミーコの言うように、まずはこいつをじっくり観察してみよう。
無駄な殺生は良くない。
平和でハッピーに、穏便解決しようじゃないか。
「モジャ、もしこの芋虫に殺意があるとしたら、リンはとうにやられていると思わないか?」
「ふむぅ‥ 。確かに」
「
糸を吐いてぐるぐる巻きにしても、木の上まで持ち上げるのは無理なんじゃないかな?」
「いかにも‥ 」
「だとすれば、仲間が他にいる可能性が高い。
それに、この魔獣はまだ成長過程かもしれない。芋虫ってのは、蝶や蛾になるだろ?」
「 もしや、何者かの " 罠 " という事ですかな。
この魔獣が成虫になると、何かが起きるかもしれぬと‥ ? ならば急がねばなりませぬな!
‥ おおっ!? 勇者殿、見てくだされ!!
まさに今、奴の体が変化してきましたぞ」
巨大芋虫がゆっくり頭を動かしたかと思うと、紫色の薄皮を脱ぎ始め、蛹になる準備を始めた。
「蛹になるのなら、その
「なるほど!良い策ですな」
蛹なら、この魔獣はまだ子供みたいなもの。
まだ俺達に危害を与えてはいないし、命を奪う必要はないだろう。
俺とモジャはじっと芋虫を観察し、" その時 " が来るのを待った。
リンは不安そうな表情で芋虫を見下ろしている。
しかし、さすがは魔獣。驚くほどの速さで成長していく。
そう待たずして、巨大芋虫の体が硬い表皮ですっぽり覆われた。
蛹になったのを見届けると、リンが吊るされている木にモジャが登った。
リンの元へ辿り着き、糸を切ることにしたのだが‥
「き、切れませぬ‥ 。この糸、かなり頑丈ですぞ」
「この糸が取れないと、身動きできないわ」
「モジャ!糸がダメなら、その枝を切り落とせないか? 俺がリンを受け止める」
「なるほど!では、枝ごと切りますぞ」
モジャは背負っていた斧を振り上げた。
「木につかまりながらの体勢で斧を振るうのは、なかなか至難の業ですのう‥
ヌォッ!ヌォッ!ヌンウォォォー!
力ならドワーフ族一番のモジャにしかできませんぞぉーーー!! ヌワッ!!!」
「キャァッ!」
ドサッ!!
モジャが枝を切り落としたと同時に、間一髪、俺がリンを受け止めた。
「勇者‥ あの‥ 」
「リン、お礼なんていいよ!」
「そうじゃなくってっ!!
この逆さまをなんとかしなさいよぉっ!!
あんたの股間が目の前にあるのよっ!」
「あ‥ 」
頭から落ちてきたリンを逆さのまま受け止めた為に、逆さになったリンのローブとミニスカートははだけ、俺の目の前には純白のパンティーが‥ 。
「ご、ごめんっっっ!」
俺は慌ててリンを地面へと着地させた。
「純白とは‥ 予想外だった‥ もっと奇抜な色だとばかり‥ 」
「なーーにを言ってるのよぉっ!? もぉっ!」
両手の自由がきかないリンから、ゲンコツがわりの頭突きをくらい、足がよろめく。
「痛っっ! いやっ!あの! 今のは間違いですっ!ごめんなさいっ!つい、心の声が‥ いやっそうじゃなくて!ど、動揺してっっ!」
俺の必死の言い訳が虚しく森に響いた‥ 。
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