第3話 決闘、そして図らずも寝取ってしまう

「うちの脳筋とうさまがすみません… クロードさん、手は大丈夫ですか?」

「あぁ、問題ない」


 まし顔で微笑ほほえむ年頃の少女を見遣みやり、紹介してくれという意図をめて、隣のレヴィアに視線を向け直す。


「クラウソラスL型の魔導士フィーネ・ダンベルク、騎士団長の養女でもある」

不束者ふつつかものですが、宜しくお願いします」


「いや、此方こちらこそ」


 やや痛む手をさすりつつ、げられた頭に応じて自身も会釈えしゃくを返したところで、団長殿と同世代に見えるせ気味の騎士が一歩進み出た。


「クロード殿、貴殿の手腕は伝令兵より聞かせていただいた。ゼノス、彼にクラウソラスを任せてはどうだろう?」


「ふむ、だがな……」


 巨大騎士をあやつるのは動力制御をになう魔導士が必須なのに加え、現状で五体しかない兵器には其々それぞれ専属の操縦者がいるはずだ。


 つまり、あぶれた誰かが、騎体きたいから降りる羽目はめになる訳で、集まった騎士達にかすかな緊張きんちょうが走った。


「言いたくないが… 私情しじょうで王よりあずかった将兵を危険にさらすのはおろかにきるぞ。先刻せんこく、四番騎に損傷を受けたのはディノの未熟ゆえ、ならば責任を取らせるべきだ」


「ま、待ってくださいッ、ライゼス様」

「お前、下手へたをすれば魔術師長の一人娘を死なせていたんだぞ」


「ぐッ……」

「…… ごめんね、ディノ」


 きゅうした藍色あいいろ髪の青年が幼馴染おさななじみの少女に振り向くも、申し訳なさそうに小さな拳を握り締めたまま視線を外されてしまう。


 そんな光景にたたまれなくなり、武人としての誇りを傷つける事無く、どうにか掛けられる言葉を探していると、鋭く睨まれてしまった。


「クロード、貴様に決闘を申し込む! ゼノス団長、俺が勝てば四番騎を降りなくても良いですよね!!」


「まぁ、かまわんか… 誰か、クロード殿に武器を貸してやれ」


「ん、これを使うと良いよ、同輩どうはい

「ちょっと待っ……」


 言い切る前に祖先そせん辿たどれば大和やまとの血筋だとうそぶきながら、長身の優男やさおとこ剣帯ソードホルダから得物えものさやごとはずして、遠慮なく放り投げてきたのでつかみ取り、ズシリとした重さに溜め息をく。


「おいおい、真剣かよ……」


 引き抜いた後の鞘を差し出されたレヴィアの手に渡し、すでに鉄剣をかまえたディノに対してことわれる状況でもないため、わずかに左足を退いた左甲段構ひだりこうだんがまえで向かい合った。


「いざ尋常に… 始め!」

「せぁあああぁッ!!」


 気合一閃、先手必勝とばかりにり出されたディノの袈裟けさ切りを迎え打ち、刃相鳴あいならした刹那せつなに左足で無防備な右上腕を蹴り飛ばして、まじえた剣身ごと横にずらしながら体勢を崩す。


 そうしてあらわになった首筋へ柄頭つかがしらたたき込み、バックステップで距離を取った。


「ぐうッ、ふざけるなぁ!」


 致命的なすきさらしたにも関わらず、るのではなく打突だとつませた事に怒りを感じたのか、よろけた状態から大きく踏み込んだディノが咆哮ほうこうと共にり上げをはなつ。


「… 悪気はないんだけどな」


 人をらう異形いぎょうの怪物ならまだしも、かよった人間を覚悟かくごが無いだけなので、その面では俺よりも彼の方が数段すぐれているのかもしれない。


 などと思いつつも、刃の腹に左手をえて、押し出すように剣戟けんげきを受け止め、左足で踏み込んできた相手あいて軸足じくあしを外にはらう。


「あっ… ぐべッ!」


 小さく声を漏らして前に倒れ込んだディノの顔面を再び柄頭つかがしら穿うがち、転倒に巻き込まれないようななめ側方へ避けてから、今度は彼の首筋に刃を当てた。


「くっ、ころせよ……」

「………………」


 何やら女騎士が言いそうな言葉を野郎やろうからもらって見下みおろす事暫ことしばし、徐々じょじょに熱の冷めてきたディノの顔色が蒼白そうはくとなっていき、かくせないおびえがうかがえる。


「そんなつらで言われてもな… らないといけないのか、団長殿?」

「決闘だからな、生殺与奪せいさつよだつも含めて勝者の自由だ」


「ならやめておくよ」

「くそがッ、何で俺は……」


 最後に見せた自身の不覚悟ふかくごが許せないのか、藍色あいいろ髪の騎士は手甲におおわれたにぎり拳を力の限り、膝を突いた姿勢で地面へ打ちつけた。


「自傷行為はめられませんね、治療をしますので此方こちらに……」


 口端くちはしから血を流す青年の腕をつかんで立ち上がらせ、身体をささえたフィーネがゆっくりと天幕てんまくに連れていく。


「…… ディノ」

「行かなくていいのか?」


 所在しょざいなさげにたたずむレヴィアにえば、彼女は小さく左右に首を振った。


「ライゼス副団長が指摘してきしたとおり、貴方あなたと組んだ方がみなの生存につながると思っちゃったし、今は掛ける言葉がない」


「ふむ、後で様子を見ておこう、あいつも騎体きたいを動かせる希少きしょうな適性者だからな」

よろしくお願いします、ゼノス団長」


 ぺこりとさわ心地ごこちの良さそうな赤毛をらして、深く頭を下げた少女の向こう側から、小型の異形いぎょうはらってきた騎兵隊や、歩兵隊の姿が垣間かいま見える。


 それに合わせるかのように日和見ひよりみしていた技師風の集団が眼前のクラウソラスに取り付き、騎体きたいの整備作業にかり始めた。


「ジャックス、四番騎の損傷程度はどうなっている?」


「魔力液の充填じゅうてんと、人工筋肉の補修で何とかなりそうです、装甲の強度劣化は受容じゅようしてください。それでかまわないなら、明け方までに何とかしますよ、副団長殿」


 さっきまで乗っていた巨大騎士を担当する整備兵長の発言を受け、レヴィアがほっと胸をでおろす。


「思ったより、大丈夫そうで良かった。魔導炉まどうろとか、中枢ちゅうすう部にまで影響が出ていたら、帝国のゼファルス領でしか対処できないから」


 誰にともなくつぶやいた彼女の視線を追い、どう考えても歩兵隊が持つマスケット銃等と比べて、オーバーテクノロジーである巨大騎士を一緒に眺めた。


「これ… 実はね、隣国の稀人まれびと領主が開発したものを供与されているの」

「そうなのか?」


 赤毛の少女いわく、滅びの刻楷きざはしと呼ばれる異形いぎょうどもが姿をあらわし、海峡かいきょうを越えた先にある島国のイグラッドを滅ぼしてから数年……


 大陸側でもフランシア王国が滅ぼされて国家間の同盟締結が進む最中さなか、各国が威信をけて普及ふきゅうに取り組んできた革新的な新規兵装が巨大騎士との事だ。


 あらめて見ると本当に西洋甲冑といった姿形しけいのロボットで現実感にとぼしく、ずんぐりとしたフォルムが実用性を感じさせる程度ていどとどまる。


 これを一国家の地方貴族に過ぎないゼファルス領主である稀人まれびと、“救世ぐぜの乙女” ともしょうされるニーナ・ヴァレル嬢がに送り出し、異形いぎょうの軍勢にじる大型種を食い止めたことで、大陸にまう人々へ希望を与えたという。

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