踏切

耳をふさぎながら起きた。

目を覚ますには余りにも乱暴で、目を覚まさせるには余りにも適任な音だったからだ。

カーンカーンというけたたましい音とともに目の前を遮断機が下りてゆく。


「目覚めも、ばつも悪いな。君は。」

誰かの声がした。誰かは分からない。だけど何となく、嫌いな人の声のような気がした。

脳裏に、いや脳裏の角部屋の微妙に余ったデッドゾーンにその人物の情報がある気がするが、定かではないので中略とする。


「人生に遮断機があるとすれば、それはなんだ?」

遮断機、線路、遮断機。それを通して聞こえる声は少し聞き取りづらかった。

「障壁か?」

「違う。遮断機とは人生そのものだ。」

問いが破綻しているじゃないか。

「遮断機は他の交通、他人の道を開けるための機械だ。その間自分は立ち止まらなければならない。」

「他人に譲ってばかりが人生なのか?」

「違う。確かに遮断機が下りている間は立ち止まらなればならない。そして通り過ぎる電車を、『他人』を待たなければならない。しかしその『他人』とは人生に於いて競うことは殆どない相手であろう。」


僕より少し深い洞察に思わず感心した。

嫌いな人であるはずなのに、感心した。

実に不思議だ。それぐらい説得力があるのだろうか?


「ではなぜ待たなければならない?」

「明らかだ。遮断機が下りているのに渡ろうとする行為は自殺行為そのものだ。他人のゆく道を阻むということは自身の道も阻むということだ。他人の道を塞いでいる間、自身も同じく先に進めない。」


カーンカーンという音と警告灯が静かに鳴り続ける。

いや、正確には静かでは無いが、その無機物的な振る舞いは、妙な静けさを感じさせた。


突如として電車が通り過ぎる。声の主は見えなくなる。

僕はその瞬間、それが夢であると気づいた。

踏切は先ほど認識していたものより大きく、立派なものになり、通過する電車の情報を表示する表示板には『-255編成 車庫ゆき』と書かれていた。


仕方があるまいと僕は回れ右して、他の道を探すことにした。


続く

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