第35話 元カノと俺の痴話喧嘩?
華奈が囲まれている。一年の頃からずっと見慣れていた風景だが、今日のは一段と多い。おおよそ10人以上に机の周りを固められ、その全員から話しかけられていて本人も笑顔ではあるがその顔も割りかし引き攣り気味だ。
少し離れたところに葛葉と早乙女もいるが、どう介入するか探っている感じで助けに入れない様子。人を捌いていた蓮がどれだけ有能かが分かる。その蓮も黒田を連れて六組に行ってしまったし、現状あの状態から華奈を救えるのは俺しかいない。
どうするかと考えるが特にいい案も思い浮かばないので、考えなしに突っ込んであとは何とかなるの精神で行こうと半ば脳死気味に歩を進める。
「おいお前ら……邪魔だどけ……」
「あ、悠真! おはよ!」
「ん。華奈、ちょい来い」
「うぇ? わぁっ!?」
華奈の席まで近づき、囲んでいた男子をかき分けて華奈まで到達すると、俺はすぐさま華奈の手首を優しめに掴んでその場から引っ張り出した。
周りの男子は全員ふざけんなといった怒号混じりの罵声を俺に向けてきていたが、今の俺には関係の無いことだ。無視して華奈を安全な場所まで連れて行く。幸い空き教室の鍵がかかっていなかったので、そこに入る事にした。
「ふぅ……助かったな」
「ありがと悠真ぁ……! 正直ずっとあれだと本当にいつか一人殴りそうだったから……」
温厚かつ明るい華奈がここまでになるとは、本当にあの男どもは何を聞き出そうとしていたのやら。
「ほんっと……悠真とどういう関係なんだとか、付き合ってくれとかさ? そんな紛れて言う事じゃ無いよね」
「まぁ……気になることはどさくさに紛れて言ってポロリさせられればいいしな……」
「それせこいよね! しかも結衣から流れてきた人もいたよ!? 私は二番手かこのやろー!」
いつにもなく荒れている。わざとらしく振る舞ってはいるものの、おそらくほぼ本心。少しマイルドに表現しているだけで実際はもっと沢山物申したいだろう。特に結衣がダメだからと華奈にシフトしてきた男子に対して。
華奈は人の好意に割と敏感だ。自分に向けられている矢印が本気であるほど真剣に向き合うし、逆に本気じゃなければぞんざいに扱うことも多い。告白されることも、ラブレターを貰うことも多いからこその棲み分けだろう。
「はぁ……結局私のことを真面目に本気で好きになってくれたの、まだ悠真しかいないよ」
「桐崎とかいるだろ……少なくとも本気だろあれは」
「桐崎くんは……本気だけど真面目じゃないよ。流石に三十五回はふざけも入ってくるだろうし」
確かに桐崎の好意は本気だと思うが、告白を重ねすぎてもはや行為としての重みが無くなってきている説はあるかもしれない。確かに好意が本当に本気で、その人しか考えられないとかなら告白は回数を重ねるごとに重くなるだろうが、桐崎は性格的にも回数を重ねてしまうとどうしても軽さが出てきてしまうのかもしれない。
「まぁ……私は悠真以外に興味ないし別にいいんだけどさ。誰に告白されようが誰に好きになられようが」
急にぶっ込まれたその言葉に、心をまた撃ち抜かれる。一瞬で体温が上がって、心臓が活性化して行く感覚が襲ってきた。
「……そうかよ」
なるだけ興味無さげな普段通りの返しをしたつもりだったのだが、俺の些細な感情の変化を華奈が見逃す筈もなく、すぐに突っ込まれた。
「え? え!? 悠真照れてる!?」
「照れてねえよふざけんな」
「いやいやいや!! 顔赤いじゃんほんのり!」
「……気のせいだろ」
苦し紛れの言い訳しか口から出ないせいで、華奈に余計に疑われる最悪の悪循環に陥ってしまった。
「いーやおかしいよ。私の悠真センサーが反応してるもん!」
「何だそのセンサー捨てろ。彼氏ならともかく友達に使うもんじゃねえだろ」
「やだ!! 絶対もう一回彼氏にするし!! あわよくば……」
そう言った直後華奈が固まって、突如火が出そうなくらい顔を真っ赤にし始めた。
『あわよくば』俺を華奈の何にしようとしているのかと警戒していると、華奈は顔を伏せ気味にして急に話を変えてきた。
「悠真ってさ……私となんで別れたの……?」
「……はぁ? 今の話の流れで何でそうなる……」
「だって……聞いても何も言わないし……あの頃何回理由を聞いても『ごめん』しか言ってくれなかったじゃん……でも今ならなんか、悠真教えてくれそうだからさ? ダメ?」
逃げられないように、俺のブレザーの裾をちょびっとだけ握る華奈。顔は伏せているものの、どんな顔をしているかは俺には丸分かりだ。
どうやってこの状況を切り抜けるか、前までならすぐ投げの一手を出せていたのに、今はまるで思考が巡らなくなってしまった。誰かどうするべきか教えてくれ。
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