第29話 ギャルと共にカフェの逆見本詐欺に殺されかけた
取り敢えず近くのカフェまで来た。対面に座る早乙女はずっと鼻歌混じりの明るい笑顔だ。俺がかなり頭を悩ませているのを知りもせず呑気なものだとため息が出る。
早乙女とデートしているところを仮に同じ学年の男子に見られでもしたら、俺は首を吊ってしまうかもしれない。確実に勘違いされて噂を広められるに決まっているのに加えて、なし崩し的に早乙女が彼女ヅラし始める可能性が極めて高いからだ。それだけは避けなければならない。
「ねー天っち〜! これ食べたい!」
早乙女が指さしたのはこのカフェの看板メニューのシロノワール。美味いの美味いのだが利点という名の欠点があり、レギュラーサイズにするとまぁまぁ……というか馬鹿でかいのだ。量が多く更には甘ったるいという半分生き地獄が待っている恐怖のメニュー。
「……ミニにしろよ。俺食わねえからな」
「えー!? やーだーシェアしよーよー!」
「俺甘いものそんな得意じゃ無いんだよ。食えるけどそれのレギュラー半分は無理だ。ミニを一人で食ってくれ」
「ぶー……わかったよ〜……」
かなり不服そうだが、一応納得はしてくれたようだ。店員さんを呼んで注文を入れる。早乙女は先ほどのシロノワールのミニサイズ、俺はたまごサンドを頼んだ。昼飯も食っていなかったので、ちょうどいい。
何故このカフェの軽食が昼飯時にちょうどいいと思うのかは、もう直ぐわかる。
「お待たせいたしました。たまごサンドです」
「あざっす」
「……ねぇ」
「ん?」
「トッピングミスってない?」
そう、シロノワールのレギュラーの例に漏れずこのたまごサンドもまたとんでもない量なのだ。通常のカフェのサンドイッチといえば、三角形に切られていて薄いものが思い浮かぶだろう。だがこのカフェは次元が違う。卵が今にもはみ出んとするほど大量に入っていて、それに比例するかのようにパンもまぁまぁデカい。長方形に切られていて、それが二個皿に鎮座している。
「まぁ……そう思うよな。俺も初見の時ビビり散らかした」
「……あたしシロノワール怖くなってきた……」
「安心しろ。ミニは普通のカフェのレギュラーくらいのデカさだから。チョコソースの量はイレギュラーだが」
そう言いながらたまごサンドを大きく開けた口に運ぶ。たまごがサイドから溢れ出そうになるが、食べ方は熟知しているのでしっかり耐える。相変わらず質量の暴力だなと思いつつも、味は辛子マヨが絶妙なパンチを生んでいてこれまた美味だ。値段も普通のカフェの値段設定なのであまりにお得過ぎる。
するとシロノワールもやってきた。到底ミニサイズに見えないデカさと、比率に致命的なバグが生まれていそうなチョコソース。
「……嘘でしょ? これでミニ?」
「相変わらずチョコソースの量がおかしいな……あむっ……」
「ひ、一人でいけるかなぁ……というか見本これだよね?」
そう言いながらメニュー表を開いて見本を見せてくる。確かに見本で見ればレギュラーで普通の大きさだ。ミニだってそれなりに小さく見えるしなんら変わらない普通の見本だ。しかし実物を見れば、見本とは全く違うデカさのミニサイズ・・・・・のシロノワールがドスンと皿の上に存在している。
「……なんかお兄さん写真と違くない?」
「マッチングアプリで出会った人がプロフィールの写真と全然違う人だった時の反応やめろ」
「それと同じ感覚でしょこれ!! 明らかにおかしいじゃん!」
「おかしいのは認める。でもこれがここのミニサイズだ受け入れろ」
そう言うと早乙女は決心がついたのか、はたまた諦めたのかフォークとナイフを握って食べ始めた。俺も二個目のたまごサンドに手をつける。デカいは幸せだが、二個でお腹が膨れかける軽食とはなんだと思わざるを得ない。もはやそれは軽食ではなく重食なのではと思い始める。
「天っち〜、あ〜ん」
「……」
ニコニコしながらなんの躊躇いもなく一口分のシロノワールが刺さっているフォークを差し出してくる早乙女をジト目で見るが、何もダメージを喰らっていない様子だ。
観念してそれを素直にいただく。さっきまでしょっぱいものを食べていたので、極限に甘いシロノワールが体に染みてくる。
「んふふ〜っ。ねぇ天っち〜」
「なんだよ……」
呼ばれたので対面している早乙女の方に再び視線を戻すと、さっきまでのニコニコ笑顔が完全に引き攣りながら青くなった顔をしていた。
「食べて……これ」
「はぁ?」
「これミニにしては量多すぎるのと単純に甘過ぎるので……胃もたれする……」
「お前マジで……」
「ごめん……」
仕方なく皿に三分の一ほど残っているシロノワールを早乙女の代わりに平らげて、カフェを出た。食べている間ずっとごめんと言っていて、カフェを出た今も少ししょげ気味の早乙女を見ると、やはりあのカフェは危険だなと再認識した。
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