第26話 元カノが俺にだけ水着姿を見せてくれる
俺と早乙女の目の前に仁王立ちしている華奈が冷え切っているのに怒りの炎が激っている般若のような顔で腕を組んでいる。
それを見て内心終わったと思い諦めの境地に達している俺と、何故か俺の手をさりげなく掴んでくる早乙女。
(なんだこれは? 地獄か?)
地獄の方がまだマシかも知れない。少なくとも華奈は確実にキレてる……というか怒りとは違う方向性かもしれない。嫉妬なのかもしれないし、思い上がりかもしれない。
「星來? 手、掴んでどーしたの?」
「んー? 別にー?」
「早乙女、離してくれるとありがたい」
「んー……わかった」
ブスッとしながらパッと手を離してくれた。取り敢えずプールから出る為にプールサイドに手を掛ける。
「さてと……華奈」
「なに悠真」
「誤解してるよな」
「してないよ。楽しそうだなって思っただけで」
いつもの明るく華やかな華奈から全く想像できないくらい冷えてる声。そんなに俺が他の女子とスライダーを滑ったのが嫌なのかと半分呆れる。
俺に執着しても何もない。復縁もしないし、する気だって無い。なのに華奈は全く聞く耳を持たないし、辞めろと言ってるのにずっと俺のことを口説いてくる。
次第にそれも諦めたが、これが本当に面倒だから諦めたのか嬉しいから自発的に辞めたのか自分でも最近分からない。
「天っち〜、次さっ……?」
「星來楽しめた〜? んじゃ星來は次あっち行こう」
「ええ!? 透!? 透はあたしの仲間じゃ無いの!?」
「私はどっちの味方でもないよ〜。強いて言えば運命の味方」
俺に喋りかけようとしてきた早乙女の後ろからぬるっと出てきた葛葉が、そのまま早乙女を連れて行ってしまった。
その様子をポカーンと眺めていると、前にいる華奈から肩をトントンと指で叩かれた。
「ね、悠真」
「ん?」
「私の水着、気になる?」
そう言われて改めて華奈の全身を見てみると、上着を羽織っていた。前もチャックで閉めていて、どんな水着を着ているのか分からない。下はパレオのようなものが巻かれている。なぜ上着を着ているのかが気がかりだ。
「そっちより上着を着てる理由のが気になるな」
「んー……日焼けがやだから」
「日焼け止めを塗ればいいのでは」
「……ばーか。こっち来て」
そう言うと華奈は俺の腕を掴んで引っ張って俺を無理やり連れて行く。さっきも早乙女にこんなことされたなと思いながらも、この先で何が行われるのか考えていたが何も思い浮かばない。
連れてこられたのは人が少ないプール。それもそのはずで、膝下あたりまでしか水が無く所謂波打ち際のような感じが楽しめるようなプール……と言っていいものなのかは不明だがそういう所に来た。
「なぁ華奈? なんであんまり人のいないプールに?」
「んー……他の人には見られたく無いから?」
「何をだよ」
「私の……」
おもむろに上着のチャックに手をかけてゆっくりと引き下ろす華奈。ようやくここに連れてきた意図を理解して、心臓が大きく一回跳ねた。
脳にいきなりハンマーを振り下ろされたような感覚に脳が陥り、思考が一気にバラバラになる。そんな事になっているなんて知る由もない華奈の手は止まらない。いつのまにか1番下まで引き下ろし切っていた。
そしてゆっくりと羽織っていた上着を脱いで、柔肌と一緒に水着姿を俺の前に曝け出した。
「……水着、悠真にだけ見て欲しくて」
「……っ」
「どう……かな? 似合う?」
あまりにも綺麗で見惚れてしまっているのか、言葉どころか声自体がそもそも喉から出てこない。
早乙女とは真逆の白のホルターネック。水色のパレオと華奈の真っ白な肌によく映えていて、とても綺麗だ。
「……悠真、真っ赤」
「……は……?俺、顔赤いか……?」
「うん。すっごい」
自分の顔色にすら意識がいかないくらい、華奈の水着姿に脳から釘付けにされていたようだ。ようやく顔が熱いことを認識して、手のひらで口を抑えて顔を背ける。
肉眼で捉えないようにしても、もうガッチリと目に焼き付いてしまっていて頭からその姿が離れない。
「……似合ってない?」
「っ……似合ってるに……決まってんだろ」
「……え」
何を言っているのか分からない。俺の口が言うことを聞かない。脳みそが口を塞げと指令を送っても神経が通っていないようにそこにたどり着く前に指令が途切れる。
言いたくないのに、言いたい事がスルスルと出ていってしまう。
「可愛いと思うし……綺麗だと思う。でも……俺以外に見られるのはなんか……嫌だな」
「はぇ……? ぁ……そっか……そうなんだ……」
「……今の、聞かなかった事にできるか?」
「無理……かな」
最悪だ。最悪なはずなのに、顔の熱が一切引かない。その俺にしか見せたくないという行動と言動が、あまりにも愛おし過ぎると普通に思ってしまった。
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