第19話 陽イケメンが俺の元カノに35回目の告白
桐崎雄司、みなさんは彼を覚えているだろうか。リレーの時に俺に擦り寄ってきて、挙句割と親しげに話しかけてきたあいつのことだ。
元々クラスも違うので関わりも無いようなものだったので、あの一件以降はもう交わることはないと思っていた。
しかし俺の考えは甘かった。陽属性のイケメンの行動力とコミュ力は生半可なものじゃなかった。
「よう悠真ー。サッカー教えろ」
「……桐崎、お前凄いな」
「なにが?」
「色々と。つかなんで俺」
「ん? だって元サッカー部かつサッカー上手いんだろ? 成宮が言ってたぞ」
蓮は俺の秘密にしたいことを平気で暴露する癖をどうにかしてほしい。しかも普段は守秘しているのに、面白そうという理由だけで守秘を破って普通に話し始めるのが余計にタチが悪い。
「上手くはないから引っ張るな」
「教えてもらう」
「嫌だ」
「悠真と桐崎くん、何やってるの?」
そう話しかけてきたのは華奈。いつもと違って若干引き気味で話しかけてきたと思ったら、桐崎が俺を掴んでいた右手を離してすぐ制服を整わせ始めた。
そういえば、体育祭の時、勝負に勝ったら華奈に告白するとかなんとか言っていたことを思い出し、その繋がりかとすぐに納得する。
「や、やぁ白石さん。久しぶり」
「まだ久しぶりって言うほど時間は経ってないけど……」
「そーだっけ?」
華奈を見ると、何故か少し警戒気味で桐崎と喋っていた。珍しいこともあるものだと素直に思った。
なにせ華奈は他人との距離感が近い。女子はもちろんだが、男子に対しても割と近い方だと思う。だから勘違いする奴が大量に発生してしまう。
ただ明らかに俺と蓮に対しては異常なほど近いと思う。蓮に対しては他の男子よりも近いが、俺に関してはそれ以上に近い。いつも朝に肩をぶつけてくるし、なにかと構って構ってと言ってくるし。
そんな華奈だから、人に警戒して距離を置いて対応するのは極めて稀なことなのだ。
「で、なんで桐崎くんと悠真が?」
「いやこいつが無理やり連れていこうとしてるだけで俺は……」
「そういうこと言うなよ。俺らの仲だろ?」
「どの仲だよ」
こいつとの関わりは体育祭のあの一瞬のみ。本当に細い関係だ。それでこんな威張られても説得力が無さ過ぎる。
「あ、そうだ白石さん」
「なに?」
「好きです付き合ってください!」
時がガッチリと止まった気がする。
一瞬が一時間に感じるレベルで突拍子もなくいきなり訳の分からないことを言った。
華奈のことだし、混乱してふわふわしてるんだろうと思い彼女の方を見ると額を抑えてため息を吐いていた。
まるで「またか」みたいな感じで。
「ねぇ桐崎くん? 付き合えないって何回も言ってるよね?」
「何回告白してんだお前」
「35回」
「多すぎだ馬鹿野郎」
こいつ馬鹿だなとしっかり思った。見た目の印象で言えば蓮には勝らないものの、かなりの美形でとても聡明そうなのに中身がこれとは。
そういえば以前葛葉が『桐崎くんは顔はいいけど頭が少しねぇ……あ、頭って勉強の方じゃなくて思考の方ね』とボヤいていたことを思い出した。
好きな人に突貫できるのは素晴らしい。俺はできないしそれはこいつの持っている才能ではあるだろう。
だが35回も突っ込むのはもはや迷惑行為にあたるだろう。華奈の頭痛が反射して俺にも襲いかかってくる感覚がした。
「ねぇ悠真」
「俺は脳外科医じゃないから、こいつの脳みそは治せないぞ」
「ねぇ助けてよ!?」
「助かるも何も……受け止めてやれよ」
少し茶化し気味に華奈を煽ってみるが、本気で嫌なのか割と懇願した目でこっちを見てくる。
対する横にいる阿保は何を思っているのか全く分からない。35回でメンタルが死なないこいつも凄いな。
「桐崎?」
「ん?」
「何が好きなんだ華奈の」
「全部」
「「はぁ……」」
華奈と俺、二人して同時に深くため息を吐いた。
予想していたはしていたが、一縷の望みにかけてな質問だったが想定していた答えが飛んできてとても残念な気持ちになる。
「ごめんね桐崎くん。私誰とも付き合わないって決めてるから……」
「そうかぁ……じゃあまた次の機会ってことで」
「なんでそうなる」
あくまで諦めない超絶ポジティブシンキングに、流石に脱帽せざるを得ない。
すると桐崎を呼ぶ女子の声が聞こえてきて、桐崎はすぐそっちへ向かって行った。
ポツンと二人取り残された俺と華奈は、共有していた頭痛を少し和らげるために二人して同じ額を抑えるポーズを取っていた。
「はぁ……」
「桐崎っていつもあれなのか?」
「うん……私も告白を断るネタがもう無いのに……あとは『好きな人がいる』と『付き合ってる』しか残ってないよ……」
「ちなみに付き合ってるは嘘だよな」
何故こんなことを聞いたかはわからない。でも、異様に聞きたくなった。
華奈はノータイムで、俺が多分心の底で欲していた答えをしっかりと答えてくれた。
「そりゃそうでしょ? 悠真が好きなんだから」
嬉しいのか嬉しく無いのか、自分でも全く分からなかった。
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