第16話 急に喋りかけてきた陽キャに興味を持たれてしまっている

 髪も解いて、自分の中の雰囲気が少し緩まった気がした。1500m走で少しスイッチを入れたが、次もかなり気合を入れないといけない予感がする。なにせアンカー。転ぶ、抜かれる等々は決してあってはならない。

 少し気を張っていると、横から知らない奴に喋りかけられた。おそらく俺と同じ二年生だろう。少し青みがかった黒髪と切れ目、明るいオーラとモテそうな要素が沢山なイケメンだ。


「よっ。お前、さっき凄かったな」

「普通だろ」

「いやいや、陸上部四人蹴散らして普通は無いって。しかもその後にリレーのアンカーとか普通じゃ無いと思うけど?」


 白い歯を見せながらニヤッとした笑みを浮かべるそいつから、蓮とはまた違うタイプのイケオーラを感じた。

 体育会系の暑苦しさは無いものの、スポーティーな爽やかさといい意味のノリの軽さを共存させていて、本来普通の人間は似合う筈のないビブスすら似合っていると錯覚するレベルの高次元な整い具合だった。顔と性格がここまでマッチしているのも珍しい。


「んで名前は?」

「天崎悠真」

「オッケー悠真ね。俺は桐崎雄司きりさきゆうじ

「桐崎ね。よろしくな」


 お互い軽く自己紹介をしつつ、実行委員に誘導されながらグラウンドに入場する。

 その間も桐崎は矢継ぎ早に話しかけてくる。俺は適当に聞き流しつつ、時にレスポンスするいつものスタイルで交わし交わしで対応。


「悠真は部活なんかやってんの?」

「今はやってねえ」

「なんかやってた系だな? じゃないとあんなに速いの納得しないぞ」

「まぁ……サッカーを少しばかり」


 そう言うと桐崎はかなり驚いた様子で目を見開いた。そんなに驚くことかと不思議に思っていると、桐崎は勢いよく喋り出した。


「いや俺も今サッカー部なんだよ。前まではバスケ部だったんだけど、敏捷性が無さ過ぎて合わなくてさ。でも部活はやりたいからサッカー選んだらかなり面白くてさ〜」

「そうか」

「悠真はどんくらい上手いんだ?」

「知らね。自分が上手いかどうかとか判断つかん」


 今の言葉は全て真っ赤な嘘だ。俺は自己分析をしっかりするし、どれくらい自分が秀でているかなんて大抵理解している。

 サッカーに関しては、一年前までならほぼ無双してた。一年の時のキャプテンと副キャプテンには敵わないものの、それ相応の立場を一年生ながら確立してたと思う。

 ただ膝ぶっ壊されて、トラウマになってドリブル突破が出来なくなったせいで何も出来なくなったが。

 一年生のリレーで盛り上がってる最中、まだ桐崎は俺に興味津々な様子で喋りかけてくる。


「いやぁウチのサッカー部って強いらしいからさ? レギュラー取れるかなぁって思ってたんだけどなんか余裕で取れたんだよな」

「入って間もないやつをレギュラー……?」

「なんか人が足りないっぽい。まぁ大会も出ないらしいから、ほぼ草サッカーに近い感じだよ。本当に強かったのか怪しむくらいに雰囲気が緩い」

(そーいや蓮が前助っ人に行ってたくらいだもんな)


 どうやら俺がいなくなってサッカー部はほんとにダメになっているらしい。一概に俺が抜けたからとは言えないし、それが理由では無いだろうが明らかにおかしい。

 顧問が編成の関係で変わったとは聞いたが、放任主義の顧問にでも当たったのかもしれない。監督も辞めたらしいし、学校がサッカー部を捨てたのかもな。

 ウチの高校は、体育祭の熱量で察せるかもしれないが、運動に力をかなり入れている。部活も勿論陸上部から女子バレー部まで強豪揃いだ。

 中でも一番力が入ってたのは、サッカー部と女バス。女バスは未だバカほど強いし、もはや県内に競合がいないレベルらしい。サッカー部も、去年までは強かったし強豪の雰囲気があったはずだ。やはりキャプテンと副キャプテンが引退して抜けたからだろうか。


「まぁでもそんなでも楽しいは楽しいし、俺はいいけどな〜」

「まぁ俺も……別にそんなだな」


 思い入れが無い訳では無いが、もはやサッカー部には未練すら無い。サッカーには未練が残るが、ほんとに復帰したいと思う日が来るなら別に部活じゃなくたっていい訳だし。


「なぁ遊真」

「?」

「リレー、勝負しようぜ。どっちが先にゴールするか」


 桐崎が急にあまりにも突拍子のない事をいきなり言い出した。リレーでタイマンの勝負? なんの意味があるんだと訝しむ。そもそも……


「それ、前の走者次第だろ。勝負にならない」

「いやいやそのハンデ含めて面白いんだろー。やろーぜ?」

「嫌だ。やる意味が無い」


 さっきの1500m走も、借り物競走も理由があったからやった。1500m走は本当に仕方無く誰も出る奴がおらず葛葉に頼み込まれたから。借り物競走は必ず一種目は出なければならなかったから。

 リレーすら、俺は出たく無いのに勝負に勝ってしまったからアンカーを任された。それに訳のわからない勝負まで付属させられたらたまったものじゃ無い。


『位置について、よーい……』


 二年生のリレーが始まった。我が青組は何度も言うが運動できる奴が少し少ない。このリレーも、割とメンバー的には不利だ。脚をグネッて1500m辞退した奴と、1500m補欠だったのに熱出して休んでる奴は勿論リレーの選手だったのでこの時点で戦力差はかなり出てる。

 案の定青組は劣勢、五組中四番手。


「ま、負けてもいいならそれでいいけどな?」

「……」


 まぁ負けてもいい。負けたっていい。

 体育祭がなんだと心でずっと思っている。思っているのに、心の底では負けたく無いと思ってしまっている。潜在的にある負けず嫌いな天崎悠真が顔を出してきているので、どうにか鎮めたい。


「白石さんにいいとこ見せたいしな俺もっ」

「……」

「このリレーで圧勝したら告白とかしよーかなぁ……へへへ」


 その言葉を聞いて、一気に思考が固まった。動揺しながら、必死にこいつの言ってる事を解読して理解しようとする。

 多分こいつは普通に華奈が好きだ。俺が元カレなのを知ってるはずもない。はずも無いのにこんな目の前で堂々と宣告されたら、俺も何故か分からないが少し燃えてくる。

 髪を括っていないのに、スイッチが入った気がした。と同時に、俺は俺自身がめんどくさい性格過ぎて嫌いになりそうだ。もう嫌いだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る