第12話 カースト上位女子に詰められるカースト最下層男子ってテンプレ展開

 熱の魔の手から抜け出して数日後、無事に登校することが出来た。しかしゴールデンウィーク全てを治療に使ったがために、少しというかかなり残念な気持ちで満ちている。

 横の席のイケメンはこの休み何をやったのだろうか。


「蓮は何やってたんだ」

「僕? サッカー部に助っ人頼まれた以外はほぼ何も」

「サッカー部って蓮に助っ人頼まねえといけねえくらい弱くなったのか」


 少なくとも俺がいた一年前までは全国区だった。当時の3年のキャプテン副キャプテンの二枚看板が飛び抜けたバケモノだったのもあるが、それ以前に選手のアベレージが高かったはずだ。いくら主力がほぼ抜けたからといって、そこまで弱くなるわけがないのだが。


「一人嘆いてたよ? 『天崎がいたらなぁ』って」

「嘘つけ。俺がいなくてもいいってのは当時大半の奴らが同意したんだから、今更嘆かれても俺は知らん」


 俺が膝故障から復帰したは良かったが、故意に膝を破壊されたというのが自分が思ってる以上のトラウマになっていたようで、ドリブル突破する際にフラッシュバックしてしまって寸前で足が止まるようになった。

 しかも俺のポジションは、攻撃も守備も高いレベルでこなさなければならない特殊なポジションのリベロ。軸として機能しなくなった主軸は、粗大ゴミと同じらしい。当時の部員ほぼ全員が俺の退部を引き止めず、むしろ助長したからしっかりと辞めた。ただそこから何故か統率が少しばかり取れなくなったらしい。

 もう知る由もないが。


「はぁーあ……体育祭来週か。怠い」

「まぁまぁ。リレーをそこそこにこなせば、やるのは借り物競走くらいでしょ?」

「まぁなんの補欠にも入ってないしな」

「ん? 天崎くんってどの種目の補欠にも入ってないん?」


 後ろから喋りかけられたので振り向くと、葛葉が少し驚いた様子で立ち尽くしていた。短い白髪と、丸メガネ。しっかりと崩すことなく着ている制服と、少し丈が短いスカート。真面目そうな風貌であるが、しっかりとはっちゃけるところははっちゃけている葛葉のいつもの姿。しかし顔がいつもと違いすぎる。いつもの平然とした真顔ではなく、かなり驚き気味の顔だった。


「いやいや、天崎くんと成宮こそ補欠というか積極的に参加すべき人ランキング上位入賞なんだけど」

「いや蓮はともかく俺は無いだろ」

「は? 去年リレー出れなくてクソ萎えてた人が言うセリフなんそれ」

(なんで知ってんだよこいつ怖えな)


 何故葛葉が俺の一年時代の事情を知っているのかはさておいて、このままだと葛葉の横暴で1500m走やらに補欠登録されてしまいそうだ。

 しかし葛葉の隣に勢いよくやってきた金髪でゆるふわなウェーブがかかっているいかにもギャルな感じの女子が、華奈よりもおかしい距離感で話してくる。名前が確か早乙女星來さおとめせいらだったか。


「え! なになに天っちってなんかスポーツしてた系!?」

「近い。あと天っちってなんだ」

「天崎悠真でしょ? だから天っち」

「それは分かってる」


 ふと華奈の席の方を見てみると、すごい顔で睨んできていた。しかも俺の視線に気づかないくらい余裕が無さそうな感じで。

 そんなに睨まれても俺は何も悪いことはしていないし、無視することにした。


「まぁサッカーやってたけど」

「すご!? そんな雰囲気一切無いのに! あ、印象の話だよ?」

「分かってるそんなんで傷つかねえから安心しろ」


 わざわざ謝ってくる早乙女に対してクソ真面目だなと思ってしまう。こんなナリをした男にもちゃんと接してくれてるだけでいい子だと思うのに、こういう配慮もできてしまうのか。カースト上位女子は違うな。

 そう思っていると葛葉がニヤニヤしながら早乙女に絶対いらんことを吹き始めた。


「星來、この黒髪顔ほぼ見えない男ね。一年の頃は凄く明るかったんよ?なんせリレー出れなくてしょげてその日ずっと暗い顔してたくらい」

「なにそれ!? かわい!?」

「かわいーなぁ悠真はぁ」

「蓮、殴るぞ」


 前にはニヤけ面の葛葉と本気でびっくりしてる早乙女、横には葛葉以上に腹立たしい顔をする蓮。この状況本当になんなんだ。側から見ればいつも暗い男の周りに、カースト最上位が集っている謎の集団だ。


「葛葉はいらんことを吹き込むな。蓮はそのニヤケやめろ腹立つ」

「いらんこととはなんだ。ただの補足だ」

「そーだよ〜? 悠真のことちゃんと知らないとこういう弄りもできないからねぇ」

「そーそー! 天っちのこともっと知りたい!」

(それはイジりたいってことか? それとも単純に知りたいだけなのか?)


 早乙女に対してどういう感情を覚えればいいのか迷子になりそうになる。

 すると華奈がいつの間にか真横まで来て、ドスッと俺の机に座っていた。


「‥‥どした」

「別に‥透と星ちゃんがいたから」

「なら俺の机に座る意味無いだろ。二人の真ん中に立てばいいじゃねえか」

「悠真の近くがいいもん」


 あまりの爆弾発言に、俺含めたクラスのほとんど全員が凍りついた。蓮と葛葉だけは笑い転げていた。

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