第1章2節: 未知の森と五感の変化
身体を起こす。驚くほどスムーズに、軽やかに動ける。やはり、以前の私とは身体の構造、あるいは質量からして異なるようだ。洞窟、と思っていた場所は、巨大な古木の根本が抉れたような空間だった。差し込む光の方へ向かう。
外に出ると、そこは鬱蒼とした森の中だった。見上げるほどの巨木が天を覆い、木漏れ日が地面に複雑な模様を描いている。空気は濃密で、様々な植物と土の匂いが混じり合っていた。これもまた、異常に鮮明に感じ取れる。視覚だけでなく、嗅覚も強化されているらしい。
周囲を見渡す。視界の端で何かが動いた。目を凝らすと、数十メートル先の木の枝で、小鳥が羽繕いをしているのが見える。その羽根の一本一本まで認識できそうなほどの解像度。聴覚も同様だ。遠くの沢のせせらぎ、風が木の葉を揺らす音、小さな虫の羽音までが、雑音としてではなく、分離した情報として耳に入ってくる。
これは……慣れるまで少々厄介だな。情報量が多すぎる。脳が処理しきれず、オーバーフローを起こしかねない。しかし、サバイバルという観点から見れば、これ以上なく有利な能力と言えるだろう。
私は試しに軽く跳躍してみた。思った以上に高く、そして静かに着地できた。身体能力も明らかに向上している。これがエルフという種族の標準スペックなのか。興味深い。筋肉の組成、神経伝達速度、エネルギー効率……分析したい対象が多すぎる。
ともかく、安全な場所とは言い難い。森は美しいが、同時に危険も孕んでいる。まずは周辺を調査し、安全な拠点となりうる場所を探す必要がある。そして、水と食料の確保。
私は慎重に歩き出した。五感をフル活用し、周囲の情報を収集しながら。足元の植物、土壌の質、風向き、動物の痕跡。目に入るもの全てが、前世の知識と照合され、分析されていく。見たことのない植物が多い。毒性や利用価値は未知数だ。軽々しくは触れられない。
だが、この未知に満ちた環境は、私の探求心を強く刺激した。ここにある全てが、私の新たな研究対象なのだから。
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