第37話 特殊事情をさらにお話しすることになった
その日の昼過ぎ、ギルド長とヨランさん達がやってきた。
「今日はここで宴会だな!」
そんなことを言いつつ、ギルド長は自分の野営地をベルさん達のそのまた隣の敷地らしい家の土台に定め、残っている壁を利用してテントを設営した。
とても手慣れているのは、ギルド長という地位に就いた後も、度々討伐などに参加するかららしい。
「魔物の数が多い時や、一か所に棲みついて被害が大きい時なんかは、ギルド長が指揮を執って戦うから、野営も度々しているのよ」
ベルさんがそう教えてくれる。
ヨランさん達の方は、彼らも野営のテントそのものは置いていってたので、ちょっと整えて荷物を下ろすだけで野営の準備は済んでいた。
それを見ていたギルド長が言う。
「俺も仮の野営地として、ここを抑えておくかなぁ。テントとかいちいち運ぶのも大変だしな」
「大荷物だからなー。ないと困るが、やっぱり動きも鈍くなるし」
そんな風にして話し合うギルド長が野営する目的は、あの薬草の群生が確かに光ることを確認しつつ、まずは先に権利を持つ私やヨランさん達の家の場所を決めるというものだ。
私はさっき決めた家の場所を話し、野営地で荷物を下ろして身軽になったみんなを連れて行った。
「ここなんです。この残っている土台部分に家を建てていただいて、ここまでをルカもいるので庭としていただければ嬉しいんですが」
「オオカミだもんなぁ……っと違った、魔物か。魔物も運動、必要なんだろうな」
ギルド長は私の横にぴったりとくっついているルカを見つつ言う。
するとラスティさんが生き生きと話を始めた。
「そうですねぇ。古の記録によると、獣から魔物に変化したのが魔物の祖の一つともいいますし。そもそも肉体があるわけですから。確か三百年前には、魔物を専門に調理する料理人もいたという記録がありますし、肉そのものが動物と同じようなものであれば、運動は必要……」
「あーちょっとストップ。肉を食べるあたりは、飢餓が発生する時までは忘れてたいわ」
ベルさんの顔色が悪い。
わかる……、一瞬、あの黒い炎をまとった魔物をステーキにする想像をしてしまった。さすがにお腹を壊しそうな気がするし、ものすごく食べるの怖いと思う。
そもそもルカの前でそれはちょっと……。
「そうだな。さすがに俺もちょっと……。基本的には魔物とかから家畜を守るとかの依頼をこなして頑張る方向で……」
ヨランさんの言葉に、ギルド長も「まぁそうだよなぁ」とうなずく。
「それに聞かされるルカが可哀想です」
私がそう言うと、ラスティさんははっとした顔になる。
「失礼しましたリーザ。そして、許していただきたい、ルカ」
「ふー」
ルカはなんともいえないため息をつく。
まぁ、人間なんてそんなもんだしね、みたいな反応だなと思ってしまった。
とにかくルカの運動の必要、という感じで庭つきで認めてもらえた。
「あと、ここに白夜の森との間の塀を作るんですよね?」
「そのつもりだ。森と一番接する場所に、君が住んでくれるのはありがたいが、大丈夫か?」
ギルド長は心配顔だ。
「むしろ塀に扉をつけていただけないかを聞きたくて……。犬一匹通れるぐらいの小さい物でいいんです。むしろ私の家直結で。その……ルカが、何日かに一度は白夜の森に食事に行きたいみたいで」
「ほう、
ウサギのような物ではだめなんだろうな。たとえば白夜の森で生息するような小型の魔物……」
そこでギルド長の言葉が途切れた。
視線の先にいるのは、今しがた白夜の森の方からぴょこぴょこ現れたウサギの魔物。
「ま、魔物!?」
「あ、あの!」
私はとっさにそのウサギの魔物を抱き上げた。
「え、リーザ危ない!」
「大丈夫です、あの、さっきも会ってて……」
いやこの説明じゃだめだ。
……もう、言うしかない。
「その、告白したいことがあるんですが……。私を訪問してくる魔物がいるみたいなんです」
そんなウサギの魔物は、口にくわえていた真っ白に変わったタンポポを私にくれた。
「あ、ありがとう」
お礼を言うと、さっと私の腕から飛び出して森へ帰って行ってしまう。
私の横で、ふぅとため息をつくルカ。
呆然とするギルド長とヨランさん達。
やがてヨランさんが言った。
「なんだか、予想外なことが沢山あるようだが……。リーザと魔物の関わりについて、改めて詳しく教えてもらった方がよさそうだな? さもないと、俺達は魔物が出た瞬間に剣を抜いて斬りつけるだろう?」
「はい、あの……」
そして私は、白夜の森を私が無事に超えられた経緯を詳しく話した。
「黒魔術師の能力にしては……規格外ね? でもルカがこんなに懐いている理由がわかった気がするわ。リーザが特別だからなのね」
話を聞いて、みんなが咀嚼するように黙り込む。
やがて最初に口火を切ったのはベルさんだった。
「だが、ある意味白夜の森に近接した町を作るなら……。リーザのような人物がいるのは望ましいのだろう。魔物から町を守るために」
ギルド長が重々しい口調で言う。
「リーザ君、君になついている魔物がいるなら、他の攻撃的な魔物が来ても戦ってくれるなり危機を知らせてくれるだろう。そうであるなら、町に住む戦えない者達のためになる。ぜひ扉をつけて、君が交流できるようにしよう」
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