第31話 私のことを告白しました
見つけるまでの、簡単な経緯説明をヨランさんがしてくれる。
まずはルカのことまで知らせると混乱しそうなのでと、そこは伏せて……。
採取をしていていつもと違う場所から森を出たら、群生を見つけたということにしてくれた。
私とは、採取の途中で知り合って、行動を共にすることにした、という設定だ。
「夕暮れ時になったと思い、急いで白夜の森を出たんですが……。白夜の森では時間感覚があいまいでしょう。うっかり夜になっていたんです。それで野営をすることにしたんです。日が暮れて、白い霧が広がった時に光り出した場所がある。見てみると……」
「光る薬草の群生だった……ということか?」
「そんな感じです」
ヨランさんはあいまいに肯定した。
その顔からは、隠し事をした様子は全く見られない。
その後ろで、私と並んでいるベルさんも平然としたものだ。
ラスティさんだけ、含み笑いをしているが……。彼が一人で笑うことは普通なので、全員に放置されている。ある意味すごい。
「その群生なのですが、同じ場所に生え続けてもまた光るかはわかりません。ただ、大量に流通したら、必ず出どころを探る者がいます。そうなってから荒らされたり、誰かが勝手に所有を主張してくるとも限りません」
ヨランさんの説明に、ベルさんが付け加える。
「というわけで、ギルドの方で管理をお願いしたいと話を持ち込みました」
「なるほどな……」
椅子に座り直していたギルド長は、少し考えて、私達を近くの会議用テーブルの方へ誘った。
長卓に一対四で向かい合うように座ったところで、ギルド長が言う。
「要望は理解した。管理も請け負おう。というか、白夜の森に接している場所では、普通の商人などが行き来しにくいだろう。魔物が出て来るかもしれないからな」
「ええ。それを考えて、ギルド長にお話しするのがいいだろうと思ったのです」
ヨランさんが言うと、「たしかにな」とギルド長がうなずいた。
「ただし薬草ということだから、薬師協会の方には噛ませてもいいな? 最終的には、薬師協会の手を借りることになるだろうから」
「わかりました。栽培できるかどうか、そして栽培方法や栽培の人手についても、薬師協会の人が入ることになるのは当然だと思います。
考えてみれば、もしそのまま栽培するとして、増やせるかどうかも研究するだろうし、それなら人が必要だ。
(あれ? 町に結構な人数が住むことになりそう?)
だとしたら心配なのはルカのことだ。
ヨランさん達が、うまく話してくれることを期待するしかない。
当のヨランさんは、ギルド長の話に応じて話し続けている。
「もし増やすこともできれば、俺達冒険者も、怪我の時なんかに困らずに済みます。効果の高い薬草が流通すればするほど安価に手に入れられますからね」
冒険者が怪我をすると、薬師が作った薬で手当てをすることになる。
魔力で効果を上げた薬を使うのだが、特に怪我にはよく効く。
普通の擦過傷でも一週間は傷跡が残るのに、薬師が作った薬を使えば一日で治るのだ。
それを薬師本人が使用すると、さらに効果は高くなる。
魔物と戦って負傷しても、かなりの深い傷でも時間をかければ治すことができる。
だからこそ、魔物と戦う冒険者なんて職業が広まったわけだけど。
「ではまず契約を結んでおこう。取り分について決めてある程度は決めておいたほうが安心するだろう? まず採取した物については、そのまま売るとして……そう、場所はどのあたりだ?」
聞かれたヨランさんがにこっと仕事用らしい笑みを浮かべた。
「あ、すいません。場所をお教えする前に、契約に入れてほしい条件があります」
「条件?」
「このリーザが操る魔物が、その場所で暮らしてもいいという許可をください。人が集まってきても、そのままで」
「は? 魔物?」
わけがわからない様子のギルド長に、ヨランさんが説明してくれる。
「リーザは特殊な黒魔術師のようで」
(いえ、魔術をこれっぽっちも使えない黒魔術師と名乗れないただの素質持ちです……)
とんでもない説明に、私は内心怯えた。
「魔物を操ってもその場だけのことのはずが、ずっと一緒に暮らすほど、魔物が懐いているのです」
(それはたぶん、ルカのおかげ……)
「そのため彼女は、町に魔物と一緒に入るわけにはいかないので、外で野営をしているのです。そんな彼女にも、群生地の側に家を与えて魔物と一緒に住めるようにしていただきたい。ギルドとしても、それだけの能力がある黒魔術師は貴重ですよね? 保護すべきではありませんか?」
ヨランさんの説明に肩身が狭くなる。
(これは……私が黒魔術をろくに使えないことを説明してないから……。今からでも明かすべきなのかしら)
それはそれで、説明しにくい。
でも、とんでもない力を持ってるからと、色々頼まれごとをされても何もできず、みんなに迷惑をかけることになるだろう。
それに、ギルド長とかいう立場の人なら、色々把握していた方がいいだろうし。
思い出すのは、実父の領地運営で困り果て続けていた家令達の姿だ。
見栄を張りたい実父が収穫量が少ない、何とか誤魔化せと言い、家令達が懇願していた。
「そんな偽装をしていたことが発覚したら、爵位を取り上げられてしまいます!」
「ミロン伯爵家ではそうしていると聞いたぞ」
「あちらの伯爵は、神殿に枢機卿を輩出されておられるので……」
「くそ、寄付して黙らせておけばいいだろう!」
そうして収穫量をごまかし、豊作だと言った実父は、気候が安定しない中でどうやったのかと聞かれる人々に囲まれて満足そうだった。
けれどその裏で、本来支払う必要がない寄付金が大量に使われ、よけいに財政が厳しくなっていた。
それの補填も丸投げされた家令は逃げ出し、父におべっかを使っていた執事が後釜についていたが……。
今ではなくとも、いずれ破綻するだろう。
だから物事を正確に把握できないと、後でとても困るはずだ。
私は思い切って手を上げた。
ギルド長も、動きに気づいたヨランさんも私に注目する。
「あの、私、黒魔術をほとんど使えないんです」
「……は?」
他の人達の驚く声が聞こえる。
次に罵倒されるのではないかと怯えたが……。
「黒魔術が使えないのに、魔物を従えるとか、とんでもないな……」
別の方向で驚かれたようだ。
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