第28話 肝心なことをもう一つ忘れていた
「そうしたら、明日ギルド長に話して視察に来てもらうか」
ヨランさんが方針を決める。
彼がリーダーなのだろうな。ベルさんもラスティさんも、その決定にうなずいた。
私ももちろん同意する。
「ルカと野営ができるのなら、それがいいです! 色々考えてくださってありがとうございます」
お礼を言う。
だって本当に助かった。
ベルさん達の話が実行できれば、光る薬草のせいで私の野営ができなくなる恐れもない。
それどころか家を建てて、ルカと一緒に住めるかもしれない。
こんなに良い話はなかった。
思わず暖かい暖炉の側で、寝そべるルカと、椅子に座って雪が降る外を眺める自分の様子を想像してしまう。
うーん、我ながら気が早い想像だ。
「いやいや。俺達も、できればトラブルは避けたいしな。それならある程度権力的な物もあるギルド長を利用するのが一番なんだよ。冒険者ギルドに所属して、会員料を払ってるんだからこういう時は利用しないとな」
ヨランさんの話で、ギルドには会員料金がかかることがわかった。
ダート王国の方はどうだったっけ……。あったような、なかったような。
なにせ黒魔術を使って魔物討伐ができなさそうだから、護衛の雇用とかの方でしか利用することを想定してなかったのだ。
それにしても、ギルド長に話を通すのもヨランさん達に頼り切りになるだろう。
私は未成年だし、ギルドにも所属していないのだから。
(苦労ばかりかけることになるな……)
心苦しい。
なにせ光る草を発見した直後から、みんなで売ったお金を折半しようと言ってくれるぐらいに、真面目な人達だからこそだ。
私を排除して、独り占めにする場合もあるだろうに……。
継母や実父だったら、間違いなくそうしただろう。
なのに私の家を建てようとか、ここで暮らせるように考えてくれた。その交渉もしてくれるつもりでいるなんて、どうやって感謝を表したらいいだろう。
私の取り分を渡した方がいいんじゃないだろうか?
ヨランさん達からは言いにくいだろうからと、私はその話をすることにした。
「交渉とかお任せすることになるので、この草を販売した分はいりませんので……」
「ダメよリーザ」
ベルさんに即刻却下された。
「こういうのは発見者で分け合うのがルールよ。パーティーの中でも交渉役以外は黙っていることが多いのに、交渉できないからって引く必要はないわ。どうしても気が済まないなら一割とか、それでいいのよ。そもそもここに来たのも、リーザが野営していて教えてくれたからでしょ? そっちの案内役とで相殺よ。だからゼロ。ね?」
一気に説明されて、私はうなずく。
そこまで言ってくれるのなら、気にしなくていいのかな?
「それでは、説明のために一本採取しましょう」
話がついたと思ったラスティさんが言う。
「はい」
それを聞いて、私はなにげなく側にあった一本を摘む。
その前に思い出すべきだった。
普通とは違う状態になった、前回のことを。
「あ……」
ベルさん達が、唖然とした表情で私の持つ草に注目していた。
私も草を見て、ようやく思い出した。
私が摘むと、なぜか光が消えないことを。
「……まさかこんなことになるとは」
「……これは、ますますアーダンの町の中だと危険ね」
ベルさんがそうつぶやき、ヨランさんもラスティさんもうなずく。
そしてルカが「わぅー」とため息まじりに鳴いた。
私には「やっちゃったー」と言っているように聞こえたのだった。
※※※
「これも、最後には隠し通せなくなるだろう。絶対にギルドの権限で保護が必要だ」
ヨランさんが断固主張した。
ベルさんもうなずく。
「この魔物くんがいない場所で生活していた時に、うっかりバレたら、誘拐されて売り飛ばされてしまうわ。ダメ絶対」
「人を護衛につけたら、それはそれで妙に悪目立ちしますからねぇ……。同性の護衛を交代が必要になるでしょうから複数とか、街中でオオカミと暮らすよりもダメでしょう。オオカミが一緒なのは、動物好きだとかそういう変わった人間だから、という理解をされます。でも人間の護衛が複数となれば、とんでもない重要人物だからと、秘密がバレる前から狙われるでしょうし」
ラスティさんがぶつぶつと分析していた。
そんな三人の総意により、私は一緒にギルド長の元へ行くことになった。
本当はこの野営地で待つという案もあったのだけど……。
「一度、売ってるんですよ。光ったままの草」
と言ったら、すぐにギルド長に危機感を持ってもらうためにも、私のことがある程度目立たないうちに重要人物だと覚えてもらうにも、ギルド長に会うべきだと言われた。
そんなわけで、ルカにはまた外で待ってもらって町に入った。
まっすぐにギルドへ向かう。
カウンターにいたのは、縦じまシャツの職員だ。
朝の、掲示板チェックに来る人達がいなくなった頃合いに来たおかげで、他に冒険者の姿はない。
「あ、あなたは」
縦じまシャツの職員が、私を見つけてにっこりと微笑む。
採取の特殊技能を持っている人がやってきた、という感じなんだと思う。
職員の前にずいっと顔を出したのはヨランさんだ。
「ギルド長に話がある。ギルドの収入になるいい話だ」
「あ、ヨランさんこんにちは。すぐに手配しますのでちょっとお待ちを」
縦じまシャツの職員はバタバタと奥へ走る。
階段を上る音も聞こえたので、おそらく二階か三階にギルド長はいるのかな?
ギルド長という人に会うのは初めてだ。
うまくこちらの要望通りになるだろうか……。
心配していると、ベルさんが肩を叩く。
「大丈夫よ。ここのギルド長はがめつくないから、ちゃんと管理に乗り出してくれるわ」
「そもそもギルド長は、子供に優しいですからね。特に、童顔で14歳ぐらいにしか見えないあなたを悪いようにしないでしょう」
ラスティさんの言葉には、苦笑いするしかなかった。
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