第20話 薬草をもらいました
あと二種類。
見つかったらいいけど……。
「夕方が近いかな」
上を見上げると、太陽の白い光がわからない。
木々の葉に隠れる位置にあるんだろう。
白夜の森へ出る時間のことも考えると、うっかりすると夜になってしまう。
「でも、もう一つぐらいは探しておきたいな」
私は未練をひきずりつつ、ちょっとずつ旧街道の方へ移動しながら薬草を探した。
残り二つは、生えている場所に特徴があまりない。
だから、種が飛んで増えている場所を探すしかないのだ。
ということは森のどこに生えているか検討がつかない。
地道に探すしかないのだが……。
「これは似てる……?」
まずは色がある普通の状態の薬草を探していたのだけど、似た葉の形の草を見つけた。
しゃがんで近くでじっくりと見てみる。
でも近くで見ると、茎が太いし、葉の形も薬草とは違っていた。
「んー、違う」
ため息をついたところで、ちょっと横にずれようとしたら、何かに腕があたった。
草ではない感触に驚く。
慌ててみれば、そこにいたのは……。
「ウサギ? いや違う。角があるわけないし」
でも白灰色のウサギとしかいいようがない姿形をしている。だけど角があって、灰色みがあるので、魔物なんだろう。
ウサギの魔物は私の服のすそを右前足で引っ張りつつ、噛んで持っていた白い草を「早く受け取れ」と言わんばかりに差し出してくる。
「ええっと」
白い草は、探していた薬草にとても形が似ている。
ウサギの方は、じーっと私を見つめて待っていた。
「く、くれるの?」
尋ねると、目を嬉しそうに細めて、手に持っている草をその場に置き、去って行った。
しばらくぼうぜんとした私は、ウサギが置いてくれた薬草に似た葉を持ち上げる。
おおお。白い色以外は、図鑑の絵にそっくり。
しかも自分では探せずにいたところだった。
考えた末、ありがたくもらうことにした。
同じ物が六本あるので、これで四種類集まったことになる。
「助かったけど……」
なぜ魔物は、私にこんなことをしてくれるんだろう?
首をかしげていたら、ふいに側にいたルカが「わう」と小さく鳴く。
そしてどこかへ歩いて行こうとする。
「あ、待って」
戦闘力がゴミカスの私が置いていかれたら、さすがにすぐ死んでしまいかねない。
ルカと離れないようにしないと。
急いで後を追った。
ルカは時々ふんふんとにおいを嗅ぐ動作をしては、行く方向を調整しているようだった。
そして私が遅れて一定以上離れると、振り返って待っている。
「どこかに案内してくれるの?」
不思議だと思いつつ、ついていく。
ルカは丈高い草原を越え、さらに進む。
すると、ごつごつとした岩ばかりの場所に出た。
いや、岩じゃないかも。
「石の……建造物の跡?」
石が積まれて、そして崩れたんじゃないだろうか。
ただ石が大きすぎて、岩のように見えただけで。
ふと、アレクシスとの約束を思い出す。
でもここはさすがに、森の端から近すぎる。
なるべく深い場所とお願いされていたので、ここではアレクシスの依頼をこなしたということにはならないだろう。
建造物の岩が砕けた後で細かくなって散らばった物が多かったのか、砂地みたいになっている。
だからなのか、木もひょろっと細い物しか生えていない。
加えて日当たりが悪いのか、草ですらまばらにしかなかった。
それでも、いくらかは生えている植物があった。
そのうちの一つに、ルカが近づいていく。
赤い茎の色、木の苗みたいにしっかりとした葉。
枝分かれした茎が全て綺麗な三つまたの、ちょっと特徴的な草だ。
「あ、これ、探していた薬草」
最後の一つだ。
私は白く変色している物を探す。
するとしばらくして。真っ白になっている薬草の群落を見つけた。
七つ採取して、私はルカにお礼を言った。
「ありがとうルカ。おかげで全部見つかったよ」
教えてくれたのだと思うので、そう言ったら。
「わふふん」
ルカがちょっと自慢気に鳴いた木がした。
「それにしても……」
ルカは、どうやって薬草の場所がわかったんだろう。
探している時に嗅いでいたから、匂い?
そうだとすると、元々この薬草を知っていたってことになる。
だけど魔物に薬草って必要かな?
「わからない……」
でも、考えたところで謎は解けないし。
今の所「わう」とだけ返事をするルカと、じっくり話してみるしかないようだ。
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