はじまりはランジェリーショップで すべてを笑顔にする僕の物語

すっくん

第1話 ほんの少しのいたずら心が運命を動かすなんて

4月に同期入社したカイとりさは、同じ会社で働きながら半年近く、まったく顔を合わせることがないまま過ごしていた。


しかし、秋の社内運動会で、初めて顔を合わせることになる。


「なによこの会社、オヤジばっかじゃない……」


りさは、入社初日からうんざりしていた。周りを見渡せば、しょぼくれた年配の男性社員ばかりだった。


「どうせ運動会って言ったって、“社員の結束”とか言ってるけど、結局はおじさんたちが、Tシャツで走る女子社員の胸が揺れるのを見たいとか、競技中に女子社員と密着したいってだけでしょ。下心のかたまりなんだから」


りさは、社員強制参加だし、出勤扱いになるからと割り切って参加はしたものの、


「でも、競技には絶対出ないんだから……」


と心の中で固く決めていた。


そんなりさだったが、人数が足りないからと強引に出場させられたのが、男女混合の二人三脚リレー。しかも、その場でペアを抽選で決めるらしい。


「え、冗談じゃないわよ……口が臭い、変なエロオヤジと組まされたら最悪……それに、もし転んで上にでも乗られたら……あー、やだ、やだ」


ブルブルッ、と身震いしながら、そう心の中で毒づいた直後だった。


「あ、俺……カイです。よろしく。どうやら、君とペアみたい」


くじで決まったペア。それが、カイだった。


——え、だれこの人。同期? てか、カッコよくない? 背も高いし…


心の中の不満が一瞬で吹き飛ぶほど、カイはりさの、好みのタイプ、ストライクど真ん中のイケメンだった。


「あ、私、りさです。あの、どちらの部署ですか?」

といつもより、ワントーン高い声で聞いた。


「えっと……」

とカイが答えようとした時。


「はい、次のグループ用意して~」

という進行役の声に、カイが話すタイミングを奪われた。


「何よ、イケメンさんともっとゆっくり話しさせてよ……」



スタートの合図とともに走り出す。


作戦を練る間もなく走ったのに、不思議とペースが合った。


他のペアが次々転ぶ中、ふたりはノーミスでゴールまで走りきり、断トツの一着。


りさは、内心

(何よ、転んで上に乗ってくれてもよかったのに、転んでもくれないなんて……)と思った。


「おまえら、初めてとは思えないくらい息ぴったりじゃん(笑)」


先輩の黒川が、ニヤニヤしながら近づいてくる。


「隠れて、付き合ってるんじゃね~のか?」


「ちがいますよ! 今日、今、初めて会ったんです」


りさは即座に否定しながら、つい口が滑る。


「ていうか、社内に……同期に、こんなイケメンいたなんて気づかなかった~」



その後の会話の中で、りさは、これまで一度も失敗したことのない“男性を部屋に誘う殺し文句”を、カイに投げかけた。


「あの、私の部屋のパソコンが調子悪くて~、でも大きいやつだから、ショップにも持って行けなくて困ってるんです~」


「え?俺でよければ見ますけど……部屋、行っていいんですか?」


——それが切っ掛けで、ふたりは付き合うようになった。


3年が経った。


同じ会社で働きながら、ごく普通の恋人として過ごしてきた。


だけど最近、りさは感じていた。


カイが……なんだか冷めてきてる。


デートはするし、優しくしてくれる。だけど、なんとなく昔みたいな情熱が感じられない。


そこで、りさはちょっとした“いたずら”を思いついた。


カイの心をもう一度惹きつけるため、りさは計画を実行に移した。


「ねえ、今度の休み、買い物つきあってくれる?」


「うん、いいけど……どこ行くの?」


「んふふ、ナイショ♡」


彼をドギマギさせるには、うってつけの場所だった。


——ランジェリーショップ。


カイに下着を選ばせて、それをつけた私を想像させる。

そして――カイの部屋へ。

その下着を、身につけてカイの前に……カイが激しく迫ってくる。

ふふっ、この作戦、完璧だわ——。


りさは、ほくそ笑んだ。


冷えかけていたカイの心に、少しでも刺激を与えられたらいい。


そんな期待を込めていた。


カイが、エッチな想像して、少しでも熱を取り戻してくれたらいい。


そんな期待を込めていた。


——だけど。


その作戦が、ふたりの運命をどこまでも揺り動かす、思いもよらない始まりになるなんて。


そんなこと、これっぽっちも思っていなかった。あのときは——。



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