第8話-2
「それじゃとっておきを見せてやるよ」
「ギギギギ!?」
一度、深呼吸。それから改めてトンファーを構えて迎え撃つ体制をとる。巨大蜂は中距離から勢いをつけて体当たりを仕掛けてくる。それを踊るように回転しながらかわした光はすれ違いざまトンファーで打撃を当てる。
攻撃をいなされた巨大蜂は再び上空へ上がるとまた高所からの突撃を仕掛ける。ワンパターンな攻撃を光は一つ一つ慎重に対処していく。
これだけの巨体をまともに受けてはそれだけで大ダメージになる。正面からは立ち向かわずに、弾くように攻撃をずらす。そしてトンファーで打撃を与えていく。
それを何度か繰り返す。
「ギギギ」
「そろそろかな」
何度目かの突進攻撃。それも慣れた体さばきでかわしつつ攻撃を与える。すると巨大蜂の体が音を立ててボロボロと割れ始めた。
「ギギギ!?」
「気が付かなかったようだね。自分の体がどうなっていたのか」
巨大蜂は光から距離を取るように上空へ上がり、その複眼で自分の体を確認する。腕が、腹が、体を覆う外骨格がところどころ砕けていた。
「ギギギ!」
しかし砕けたのならば修復すればいい。さっきも同じことをしたのだからと巨大蜂は考え実行しようとする。しかし。
「ギギギ?」
砕けた体が一向に元に戻らない。その気配が無い。何故かと思い、砕けた体をよく見てみるとその部分が自分の体とは違う別の何かに変質していた。
「気が付いたみたいだね。これは僕の新しく開発したデバフ「石化」だよ。正直、このデバフも消耗が激しいから終わりの見えない状況では使いたくなかったんだけど。でも良かった。石化したところは再生しないようで」
「ギギギ」
巨大蜂が忌々し気に光を睨みつけてくる。ねっとりまとわりつくような殺気を涼しげにかわして勝ち誇ったように見上げる。それが気に障ったのか巨大蜂は苛立ちを見せた。
「ギギギギギギ!」
ガチガチと歯を鳴らし、更に高度を上げる。そしてその高さから一気に光めがけて急降下。速度と勢いを増した体当たり攻撃。
「もう見切ったよ」
光はタイミングを合わせて大きくジャンプした。地面すれすれを飛行する巨大蜂の頭上へ飛びあがった光は背中に乗り、羽の付け根をトンファーで攻撃する。石化した背中を砕くとすぐに飛び降りる。
羽をもがれた巨大蜂は勢いそのままに地面を滑り周囲に居た螻蛄どもへと激突。その衝撃で螻蛄たちが何体か消し飛んだ。
それを見た光はやはりまともに受けなくて良かったと安堵。そしてすぐに巨大蜂へと追撃を行う。
巨大蜂は立ち上がろうとするが、その前に光の攻撃を受けて消滅した。
完全に死んだことを横目で確認しつつ、光はすぐに次の行動を起こす。周囲にはまだ百体近い螻蛄軍団がかこっている。身動きが取れなくなる前に樹木を破壊しなければならない。
「これで終われ!」
樹木は無抵抗のまま光の攻撃を受け入れた。猛毒のデバフを付与して十数秒。樹木は枯れ果てて消滅した。
「よし。後は雑魚を一掃すれば」
だがその時、地震が光たちを襲った。
***
「光はどうなった?」
簡易拠点で待機している勝が尋ねると、双眼鏡で見守っていた亮がぐっと親指を立てる。
「無事に蜂のアラガミを討伐完了。あの樹木も破壊完了したよ」
「よっしゃっ!」
「よし。なら光を一旦下げ――」
祐が通信機のスイッチを押すと同時に地面が激しく揺れ動いた。
「なんだっ!?」
「多分、次のウェーブが始まったんだ!」
「もうかよ!」
「次はどんなのが来るんだ?」
「何が来ても関係ない。光を戻さないと」
揺れ動く中、壁にしがみ付きながら光へと連絡を入れる。向こうも同じように揺れが激しいそうだが、帰還するには問題無いとのことだ。
揺れは次第に収まっていくが、同時に地響きが鳴り響く。何かとんでもないものが地面からせり上がって来るのも確認できた。
「ついに出て来たか・・・」
地面の中から出現した怪物を見て、全員が確信した。
あれこそがこのエリアのゲートキーパーだと。
揺れが収まり、改めて目標を確認する。大きさは10メートル程なので大型クラス。蝉の幼虫のような体から一本の巨大な樹木が生えている姿。まるで冬虫夏草のようだなと亮は思った。
「いや、冬虫夏草は菌だったか」
まぁどっちでもいいかと、あれの対処法について頭を巡らせる。植物系か昆虫系かの判断は出来ないが、どちらにせよ素早く動く見た目ではない。ここから出現距離まではおよそ800メートル程。
お互いが接近するまでに少しの猶予がある。その間に光を回復させて同時に攻め込めば問題無い筈だと。
「ただいま」
思考を巡らせている間に光が帰還した。無数の細かい傷を負ってはいるものの、五体満足での帰還に全員がホッと胸を撫でおろす。
「よし。それじゃ今度は俺が出るぜ!」
「ああ、頼む!」
入れ違いざまに勝が砦から飛び出した。真っすぐにゲートキーパーを目指す。
亮は光の傷を癒し終えた後、消費したオーラの回復を始める。
「どれくらいで終わりそうだ?」
「少し時間がかかるよ。オーラの回復はまだ慣れていないから」
「分かった。鋼と創はもう一度、砦の改修を頼む」
「応。例の作戦だな」
「僕も大丈夫。二人が戦ってる間に下準備は終わらせた」
鋼と創の二人は砦でただ待機していただけではない。最終局面へ向けて敵に気づかれないように裏でコツコツと作業を行っていたのだ。
「後は勝に何事もなければいいんだが・・・」
双眼鏡で勝とゲートキーパーを交互に見る。勝はまだ敵と遭遇することなく進んでいるが、敵の方に動きがあった。
土台と化している昆虫部分から何やら小さい蟲が大量に湧き出ているではないか。
「うわ・・・」
思わず双眼鏡を放り投げたくなる光景に、祐は小さく呻いた。湧き出た蟲はダニに似ており、それがびっしりと地面を覆いつくしながらこちらへと向かって来ている。
虫に耐性がある自分たちでも引くのだから、もしここに集合体恐怖症や昆虫恐怖症が居たら間違いなく発狂していただろう。
「ここのゲートキーパーは何が何でも数で押すタイプか。勝・・・頼んだぞ」
一歩対処を誤れば自分たちがあの蟲の大群に飲み込まれるかもしれないと思うとぞっとした。
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