第4話-2
座学の午前中を終えた勝はさっさと昼食を終えて訓練棟へ来た。午後からは訓練になる。
まだ昼休み中なので訓練室でのんびり着替えながら今日の訓練内容を考える。アタッカーの訓練に指導する教官は居ない。基礎訓練は皆、中学の頃に終えており高校ではチームの連携と立ち回りを中心に訓練し、個人技能の訓練は各自で行う。
この訓練場は個人訓練のためのもので、素振りなどの型の練習や相手が居れば模擬戦を行う。今はまだ誰も居ないので、時間が来ても一人なら適当に素振りをして時間を潰そうと考えていた。
最もこの訓練で人が居ないことなどないのでそんなことにはならないと心配していないが。
少し待っているとすぐに誰かがやって来た。別のクラスの同級生だ。彼とは挨拶を交わす程度の仲なので名前は実は知らなかったりする。
「おっす」
「お疲れ」
軽く挨拶を交わして彼は自分と同じ訓練着に着替え始める。訓練着と言っても専用の服ではない。黒のタンクトップに黒い布の長ズボン。そして運動靴だ。訓練内容によってはすぐにボロボロになってしまうので、そうなると買い替えなければならずお金に厳しい学生には正直キツイ。
なので先輩のアタッカーの中にはわざわざ買ったりせずに私服だったり裸だったりで済ませたりする人もいる。
「今日、お相手出来るかな?」
「いいぜ」
まだ他に来ていないので了承。昼休みが終わるまで適当にしゃべって時間を潰し、午後の訓練をスタートした。
訓練場に一番に出て場所を確保する。流石にこの時間になると他のアタッカーも大勢来たので少し早めに動いたのだ。
「それじゃ行きますか」
「いつでもいいぜ」
勝と相手は木刀を構えて向かい合う。初めの合図は無い。
先に仕掛けたのは勝だ。まずは小手調べとして真正面から振り下ろす。相手はそれを受けて立った。
そこから何度か剣を交え、お互いに体が温まるってきたところで剣戟のスピードが徐々に速くなっていく。
カンっ、カンっと木刀がぶつかり合う音が響き渡る。リズムよく軽い音がだんだんと重たい音へと変化していく。
「はっ!」
最初はお互いに打ち合っていたものの、気が付けば相手の生徒は防戦一方になっていた。反撃をしたいが、勝からの一撃が重たく受け止めるとその手が痺れ、更に剣の速度も徐々に速くなっているので付いて行くので精一杯だった。
打ち合いながら、生徒はなるほどと納得した。初めて剣を交えたが、確かに中層を付き進めるだけの実力があると。正直、心の中で勝を舐めていた自分を後悔した。どうせ本当は大した事は無いだろと。
「くっ!」
模擬戦が進むにつれ男の顔は歪み、反応は遅くなる。そしてとうとう。
カランっ
男の手から弾き飛ばされた木刀が大きな音を立てて地面に落ちた。
「ふぅ・・・ありがとうございました」
「ありがとうございました」
勝負を終えた二人は礼をしてコートを待っている次の生徒へと明け渡した。そのままベンチに座り体を休める。
「いやぁ、強かった。何か申し訳ないな。俺ごときが相手じゃ訓練にならなかっただろ?」
「いや、そんなことねぇって」
正直、勝にとっては物足りない相手だったが、それは彼に限った話ではない。まだ2年の彼だが実力では3年生でもまともに相手できるのは限られる。それほどまでに勝のアタッカーとしての実力は同年代の中で群を抜いていた。
「そういやさ。噂で聞いたんだけど、配信休むって?」
「ああ、もう知ってるのか。その通りだ」
配信。つまりナカツクニへ行くのはしばらく止めにすることにした。理由は2つ。
一つは光が発見したデバッファーの秘密について、その情報を開示するのを遅らせるため。今、その情報を公開しても信ぴょう性が薄く、疑われるのが目に見えているから。また光の修行にメディアなどの邪魔が入る可能性があるためだ。
とにかく現状は光の成長の邪魔になることは避けたかった。
二つ目は情報の開示は動画内でインパクトのある回に行いたいと言う創の提案だ。彼はこれだけのビッグニュースを使って再生数を稼ぎたいようだ。ちなみにその動画の内容はまだ決まっていない。
「そうかぁ。ちなみに理由は?」
「チーム内で今後の方針が纏まらないからな」
本当のことは秘密なので適当に答える。とは言えまるっきり嘘ではない。光も創も鋼も、自分の戦い方を改善しようと模索している最中だ。それによっては今後の戦術が大きく変わって来るだろう。
「そうか・・・」
しかし勝の答えを聞いた相手は少し声を潜めた。
「やっぱり相沢を外すのか?」
「はぁ!? なんでそうなる!?」
「いやだって、方針が纏まらないってそう言うことだろ?」
どうやら彼は盛大な勘違いをしてしまったようだ。この言い訳はまずかったかなと思ったが、今更訂正は出来ない。
しかしこの勘違いをそのままにはしておけない。
「それは絶対に無い」
「そうなのか? 本当に? 皆噂してるぞ」
「それは噂だ。気にするな」
「でも実際にこれから先、どうやって戦っていく気だ? ハッキリ言わせてもらうが、相沢はもう戦えないだろ」
「そんなことは無い。光はまだ戦える」
ここで光の強さを教えたかった。だがまだ言えないのでぐっと堪える。
「いや、無理だろ。お前たちの配信をチェックしてるけど、もう限界だって。このままじゃ取り返しのつかない事になるぞ」
「それは、大丈夫なんだって」
興味本位で聞いてきたと思ったら、どうやら光の心配をしてくれてたようだ。その気持ちは素直に嬉しい。
今もしつこく考えを改めるように言ってくれるので、反論しているが、しかしこのままではボロが出てしまいそうだ。
勝は無理やりこの場から離れることにした。
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