第3話-1 可能性
「イテっ!」
木刀の一撃を脇腹に喰らってしまい、勝はその場にしゃがみ込んだ。
「大丈夫か?」
対戦相手が慌てて駆け寄って来る。相手も軽めに打ち込んだ一撃が、まさかこんなにも刺さるとは思ってもいなかった。
「イテテ・・。大丈夫」
「今日は調子悪いのか?」
勝は差し出された手を借りて立ち上がる。相手は心配そうに顔を覗き込んでくるが、少しだけ引きつった笑顔で片手をあげて答える。
「悪い。ちょっと考え事をしてた」
「おいおい。全く・・・」
余計な心配をかけさせるなと呆れられた。落とした木刀を拾い上げてもらい受け取る。
「集中しろよ。訓練とは言え木刀使ってるんだから。打ち所が悪かったら大怪我するぞ」
「ああ、悪かった。・・・ちょっと外で休んでくる」
「駄目そうなら、休んじゃえ」
「そうする」
訓練場を、待機していた後輩に明け渡して近くのベンチに深く腰掛けた。
「はぁ・・・光。大丈夫かな・・・」
気になっていたのはもちろん光のことだ。今は創と一緒にナカツクニへ行っている。心配しているのは彼の身の安全ではなく、進路についてだ。
「はぁ・・・」
もし光がチームを本気で抜けたいと思っていたらそれを受け入れる。仲間にはそう告げたが、本心では嫌だった。
できる事ならこれからも一緒に戦っていきたいと願っている。
もし光が強くなるために、自分が出来ることがあるのならばどんな協力も惜しまない。
「やっぱ・・・俺の所為だよな」
子供の頃の記憶が蘇り、胸が苦しくなる。
「はぁ・・・」
こんな精神状態じゃ訓練どころじゃない。今日の訓練は早々に切り上げることにした。
「・・・なんだ?」
ロッカー室へ戻ると何やら騒がしかったので、聞き耳を立ててみる。
「聞いたか? イレギュラーが出たって」
「マジか。それでどうなった?」
「結構大怪我負って医療棟に運び込まれたらしい」
「やべぇじゃん」
イレギュラーが出たと聞いて勝の顔が青ざめる。もし光と創が向こうでイレギュラーと出くわしてしまったら・・・。
嫌な予感がしてダッと走り出した。
「二人とも。無事でいてくれ」
アタッカーの訓練場からゲート迄はそれなりに距離はあるものの、鍛えた足腰のお陰ですぐに到着した。
「二人は・・・」
ゲート部屋の事務室へと入る。そこでは数人の教師と生徒が慌ただしく電話をかけていた。
「すみません」
と背後から声が聞こえたので振り返ると、鋼と祐が入って来た。
「あれ? 勝じゃん。どうしたの?」
「俺はイレギュラーが出たって聞いて。光たちが心配になって」
「俺たちも同じ理由だ。それで状況は?」
「分からん。俺も今来たとこだから」
3人はしばらく待っていたが、一向に手が空きそう似なかったので一旦事務室を後にした。
それで外で待機している生徒に事情を聴いてみた。
「今? 今は第二陣の救援隊が出発したところ」
「第二陣?」
「救難信号が2回出たんだ。別々の座標で。最初の救難信号がイレギュラーに襲われたチームで、今行っているのが多分、誤発信じゃないかって言われてる。機材トラブルの可能性が高いんだってさ」
「そうか・・・。ちなみに俺たちのチームメイト見なかったか?」
「チームメイト? ああ、葉加瀬たちなら第二陣の救援隊に一緒に付いて行ったぞ」
「付いてった?」
まさかの展開に勝だけでなく鋼や祐も驚いた。
「ああ、なんでも相沢の知り合いが救難信号を出したチームにいるみたいなんだと。それで心配で付いて行ったんだ。葉加瀬と、あと七海も一緒に」
「亮まで一緒かよ」
「そっちは当番だってよ」
「あの3人が一緒なら、よっぽどの相手じゃなければ大丈夫だろうが・・・」
しかし勝の不安は消えない。
「おっ、話をしていたら戻って来たみたいだぞ」
ゲートが放つ光が強くなった。
中から出てきたのは生徒が2人。一人はもう一方に肩を借りている。肩を貸す方もどこか辛そうにしている。
「何があった?」
尋常じゃない様子だと判断して事情を尋ねる。
「蛇だ。巨大な蛇に襲われた。毒霧を吐いて来て、殆どやられてしまった。今はデバッファーの奴が一人で戦ってる」
「光が!? どうして!?」
「デバッファーはデバフが効かないからって。それで一人で・・・」
「くそっ!?」
居ても経っても居られなくなりゲートへ飛び込もうとする勝。それを鋼が止めた。
「早まるな。準備無しで飛び込んだら2次災害になる!」
「それにゲートの向こうは毒霧の中らしい。ならその対策もしないと」
「分かってる。でもその準備の間に光は・・・」
「落ち着けって。毒霧はもう大丈夫だ。お前たちと同じチームのクラフターが解毒剤を調合してくれた。それを散布したお陰で何とか体が動かせるようになった。俺たちは先に戻って事情を説明しに来たんだ。それにデバッファーの奴が一人で戦ってるって言ったが、殆ど終わりかけだ。あいつ凄いな。中層クラスの敵を一人で圧倒してたぞ」
「え?」
一瞬、誰のことか分からなかった。光だと思っていたが、違うのか、と。しかしデバッファーは光以外には居ない。
「分かった。毒霧が大丈夫なら俺たちが突入しても大丈夫だろう。念のために応援は呼んでいてくれ」
「分かった。気を付けて行ってくれ」
「ああ」
勝と一緒に鋼と祐もゲートを潜った。出た瞬間に戦闘になることを想定して心構えを終えて。
だがその準備は無駄に終わった。
「・・・え?」
ゲートの先では亮の治療を受ける生徒たち。薬らしきものを配る創。そして倒れた大蛇とその上で一人佇む光の姿があった。
「光!」
他には目もくれず光の元へと駆け寄る勝。
「勝?」
「大丈夫か?」
「ああ・・・うん。大丈夫」
「・・・どうした?」
光の様子が何やらおかしい。不安が増して行く。
「あ、うん。大丈夫。何とかなったから・・・」
「本当に大丈夫か?」
心ここにあらずと言った様子だ。
「あ、うん。本当に大丈夫。ちょっと頭が混乱してるだけだから」
「何があったんだ?」
足元の大蛇を見下ろす。まだ息があるようだが、虫の息だ。もうすぐ死んで塵となって消えるだろう。
「それも含めて・・・後で話すよ」
「・・・わかった」
今はその言葉を信じるしかなかった。少なくとも最悪を想定していた嫌な予感だけは外れてくれたのでホッとした。
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