古代ローマ・エジプトの特殊合計出生率(TFR)
🔴参考資料:
Wikipedia、ローマ帝国の人口学
https://short-link.me/11HF1
ローマ時代の平均寿命は、男性で約30歳、女性で約25歳程度と短かったとされている。 紀元前200~300年のギリシャ・ローマ時代では、27歳という平均寿命が記録されている。最も古い時代の推計としてはローマ時代のエジプト33-258年の推計値が24歳とされる。
この前提で、古代ローマ、古代エジプトの人口を維持するための特殊合計出生率(1人の女性が一生の間に出産する子供の数を示す指標。15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計することで算出)を計算した。ただし、現在の定義では、15歳から49歳までの女性が対象だが、対象の下限と上限は調整した。
人口維持に必要な出生率の探求
序論:古代社会の生命の脆さ
古代社会における人間の生命は、現代の我々が想像する以上に脆く、短いものである。ローマ帝国の繁栄やエジプトのナイルの豊穣にもかかわらず、平均寿命は出生時の高死亡率により驚くほど低く、人口の維持は絶え間ない出産によって支えられていた。
古代ローマでは、男性の平均寿命は約30歳、女性は約25歳であり、ローマ時代のエジプト(西暦33~258年)では、平均寿命はさらに短く24歳であった。紀元前200~300年のギリシャ・ローマ時代では、27歳という記録が残されている。
これらの数字は、乳児死亡率の高さと過酷な生活環境を物語っている。人口を維持するためには、女性は多くの子を産み、その一部が成人まで生き延びることを期待する必要があった。このエッセイは、古代ローマとローマ時代のエジプトにおいて、人口を定常状態に保つために必要な特殊合計出生率(TFR)を計算し、その背後にある生命の均衡を探求するものである。TFRは、1人の女性が生涯に出産する平均出生数を表し、古代の厳しい現実を映し出す鏡である。
TFRの定義と古代への適用
特殊合計出生率(TFR)は、1人の女性がその出産可能年齢を通じて産む子供の平均数を意味する。現代では、15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計して算出される。しかし、古代社会では、女性の寿命が短く、早婚が一般的であったため、この範囲をそのまま適用することは適切ではない。
古代ローマやエジプトでは、初潮は栄養状態の悪さから13~14歳頃に訪れ、結婚は14~16歳で始まるのが通例であった。女性の平均寿命が25~30歳であっても、15歳まで生存した女性はさらに10~20年生きることができ、30~35歳まで出産が可能であった。ただし、35歳以上では出産リスクと死亡率が急上昇するため、出産可能年齢は14~34歳(約20年間)と設定する。これにより、現代の49歳上限は大幅に短縮され、古代の生物学的・社会文化的現実を反映する。
人口を維持するためには、1組の親が自身を置き換える子孫、すなわち成人(15歳)に達する男女各1人を残す必要がある。性比はほぼ1:1(出生時男性1.05:女性1だが、簡略化のため1:1)であり、1人の女性が成人女性1人を産むことが目標となる。しかし、古代社会の高死亡率は、この目標を困難にする。乳児死亡率は出生1000人あたり200~300人(20~30%)、5歳未満死亡率は40~50%に達し、15歳まで生存する子供は出生の50~60%に過ぎない。この過酷な現実を踏まえ、TFRを計算するモデルを構築する。
古代ローマ:多産の都市帝国
古代ローマの人口動態は、都市化と奴隷制度に支えられた複雑なものであった。平均寿命は男性30歳、女性25歳であり、乳児死亡率は約25%、5歳未満死亡率は45%、15歳までの生存率は55%と推定される。出産可能年齢を14~34歳と仮定し、人口置換水準を計算する。
人口を維持するには、1人の女性が成人女性1人を産む必要がある。15歳までの生存率が55%であるため、出生女性数(X)は以下の式で求められる:X × 0.55 = 1。よって、X = 1 ÷ 0.55 ≈ 1.82。性比が1:1であるから、総出生数は1.82 ÷ 0.5 = 3.64となる。これにより、TFRは約3.64となる。
しかし、女性自身の死亡率を考慮する必要がある。平均寿命25歳は乳児死亡率に引きずられた値であり、15歳まで生存した女性の平均余命は約40歳である。14~34歳の間に死亡する女性は約20%と仮定し、生存女性の割合を0.8とする。調整後のTFRは、3.64 ÷ 0.8 ≈ 4.55となる。出産間隔を2.5年(授乳による自然避妊と栄養状態を考慮)と仮定すると、20年間で約8回の出産が可能であり、TFR 4.55は1回あたり0.57人の出生に相当する。これは現実的な値である。
古代ローマのTFRは、約4.5~5.0である。この値は、歴史的推計と一致する。ローマの上流階級ではTFRが2~3と低かったが、奴隷や下層階級のTFRは5~6であり、全体の人口を支えた(Frier, 2000)。ローマの多産文化は、大家族を理想とし、子供は労働力や社会的地位の源であった。都市の喧騒とコロッセウムの輝きの中で、女性たちは生命の重荷を背負い、4.5~5人の子を産むことで帝国の存続を支えたのである。
ローマ時代のエジプト:ナイルの試練
ローマ時代のエジプト(西暦33~258年)は、ナイルの豊穣に支えられた農業社会であったが、衛生状態の悪さから死亡率は高く、平均寿命は24歳であった。乳児死亡率は30%、5歳未満死亡率は50%、15歳までの生存率は50%と推定される。出産可能年齢はローマ同様14~34歳である。
人口置換には、1人の女性が成人女性1人を産む必要がある。15歳までの生存率が50%であるため、出生女性数(X)は、X × 0.5 = 1、よってX = 2となる。性比1:1により、総出生数は2 ÷ 0.5 = 4、TFRは4.0となる。
女性の出産期間中の死亡率を考慮する。平均寿命24歳は乳児死亡率に影響され、15歳まで生存した女性の平均余命は約38歳である。14~34歳の間に死亡する女性は25%と仮定し、生存女性の割合を0.75とする。調整後のTFRは、4.0 ÷ 0.75 ≈ 5.33となる。出産間隔2.5年で、20年間に約8回の出産が可能であり、TFR 5.33は1回あたり0.67人の出生に相当する。これも現実的な値である。
ローマ時代のエジプトのTFRは、約5.3~5.8である。この値は、エジプトの農村社会の多産文化に適合する。歴史的推計では、TFRは5~7とされ、ナイルの豊穣が人口を支えたが、疫病や衛生問題が死亡率を押し上げた(Scheidel, 2001)。エジプトの女性たちは、ナイルの氾濫と神々の加護を信じ、5.3~5.8人の子を産むことで、文明の連続性を守ったのである。
ギリシャ・ローマ時代:中庸の均衡
紀元前200~300年のギリシャ・ローマ時代は、都市化と哲学の花開く時期であった。平均寿命は27歳、乳児死亡率は27%、5歳未満死亡率は47%、15歳までの生存率は53%と推定される。出産可能年齢は14~34歳である。
計算は同様である。出生女性数(X)は、X × 0.53 = 1、よってX ≈ 1.89。総出生数は1.89 ÷ 0.5 = 3.78。出産期間中の女性死亡率を22%(生存割合0.78)と仮定し、調整後のTFRは3.78 ÷ 0.78 ≈ 4.85となる。
ギリシャ・ローマ時代のTFRは、約4.8~5.3である。この値は、ローマとエジプトの中間に位置し、都市と農村の混在を反映する。アテナイの討論やローマの法廷の中で、女性たちは4.8~5.3人の子を産み、知識と力の時代を支えたのである。
歴史的妥当性と生命の物語
計算されたTFRは、古代社会の歴史的現実と整合する。古代ローマのTFR 4.5~5.0は、上流階級の低出生率と下層階級の高出生率のバランスを示す。ローマ時代のエジプトのTFR 5.3~5.8は、農業社会の多産と高い死亡率を反映する。ギリシャ・ローマ時代のTFR 4.8~5.3は、両者の折衷として妥当である。これらの値は、古代の多産文化――子供が労働力であり、家族の存続を保証する存在であった――を裏付ける。
出産可能年齢(14~34歳)は、初潮、早婚、寿命の制約を考慮した結果である。乳児死亡率(20~30%)と15歳までの生存率(50~55%)は、歴史的推計(Hopkins, 1983)に適合する。女性の出産期間中の死亡率(20~25%)は、平均余命の分布に基づく。出産間隔2.5年は、授乳と栄養状態を反映し、6~8回の出産は生物学的に現実的である。
古代の女性たちは、短い人生の中で多くの子を産み、過酷な環境に抗った。ローマの市場、エジプトのナイルの畔で、彼女たちの出産は文明の基盤であった。高い死亡率は生命を奪ったが、多産はそれを補い、人口の均衡を保った。この均衡は、まるで神々の意志のように、古代社会を存続させたのである。
結論:生命の重荷と文明の連続性
古代ローマにおいて、人口を維持するには、1人の女性が生涯に4.5~5.0人の子供を産む必要がある。ローマ時代のエジプトでは、5.3~5.8人の子供が必要である。ギリシャ・ローマ時代では、4.8~5.3人の出生が求められる。
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