9話

朝の訓練を終え、姉さんは学園へ、父さんと爺ちゃんは魔物狩りへ――となれば、自由時間の到来である。


「ようし、今日は街にでも繰り出して甘いもんでも食うか!」


「君、本当に訓練の後って感じがしないね……」


シリルが苦笑しながらも隣を歩く。すっかり恒例となった訓練後の小さな遠征だ。昼寝も大事だが、うまいものを食うのも俺の大事に使命だ!!

街の中心部には小さな市場と、菓子を売る屋台が並ぶ通りがあり、訓練の疲れを癒すにはぴったりの場所だった。


「シリル、あれ見ろ。新しい店、できてんじゃねぇか?」


「……“ミレリア堂”?聞いたことない名前だね」


「いい匂いがする。行ってみようぜ!」


小さな店構えの前に並ぶのは、焼き菓子と香り高い茶葉の数々。目を引いたのは、焼き立ての“リンゴパイ”だ。


「いらっしゃ――」


店先から現れた少女が、ぱちりと目を瞬いた。


「……あら。君たち、騎士団の訓練場で走ってた子たちね?」


そう、最近の訓練は魔法の仕様も解禁され、うちの庭じゃあ手狭になっちまって騎士団の訓練場を使わせてもらってるんだよな


「おう、見てたのか?」


「まあ、あれだけ派手に転がってたら嫌でも目立つわよ」


落ち着いた口調で、けれど柔らかく笑うその少女は、栗色の髪を風に揺らしながら二人を見ていた。


「私はティナ。ここの手伝いをしてるの。ちょうど焼き上がったところ、よければ試食してみる?」


「俺、レオン。こいつはシリルだ」


「シリルだよ。……試食、いいのかい?」


「もちろん。戦士の糖分補給ってやつでしょう?」


レオンが一口かじると、バターと蜜林檎の香りが広がった。


「……うっま……!」


「うん、これは甘すぎないのに満足感ある。計算された味だね」


...前から思ってたけど、こいつのいかにもいいもの食ってきた感じ、絶対平民じゃないよね?

藪蛇はごめんだから聞かねーけど...そもそも容姿も奇麗すぎて平民じゃありえなさそうだもんな。


「ふふ、計算された味なんてお貴族様みたいね!」


「...え!?いや、そんなことはないよ!」


「あはは! うそうそ! 適当に行ってみただけよ」


ティナは微笑んだ。


「そうなのか...でも、レオンは貴族だよ?」


「えぇ!!ほんとに??」


「おい、なんで疑問形なんだ!」


「だって...ねぇ?」


「ははは、レオンは貴族っぽくないからね」


「まったく、失礼な奴らだ」


「それにしても、この時間にいるってことはティナは学園に行ってないの?」


「学園は来年からね! 私6歳だから!」


「じゃあ僕たちと同じか! 学園に入ったら仲良くしてね!」


「学園か~、めんどくさいなぁ」


「レオンはめんどくさがり屋なんだね」


「俺は家でだらだらしてる方が楽しいと思うだけだ」


「そう?この後も家でだらだらするの?」


「おう!最近お気に入りの昼寝スポットを更新したんだ!

あそこならだれにも邪魔されずにぐっすり眠れる!!」


「あはは!変なの!じゃあ明日も昼寝前にまた買いに来てね!」


こうして俺たちの日課に訓練後のリンゴパイを食い、三人で駄弁るのが追加された。


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