第2話 三等兵の勇者 ④

 途中タクトの『時空魔法』の圏内に追いつき、タクトは走りながら深呼吸する。その間クリシアが銃を当てるも、後ろ姿は貫通しただけで、動きは止まらなかった。

 ついに、デノンはコクピットのドアをタックルで破壊した。はずみでデノンの巨体が、そのコクピット内の操縦席いくつか破壊する。

 しかしそこで待ち構えていたのは、ポニーテールをなびかせていたマユカだった。

「マユカ! 危険だぞ!」

「気をつけて! ヤツを仕留めて!」

 そのタクトとクリシアの声が届いたか届かないか、マユカは笑みを浮かべる。

 デノンが彼女めがけて襲いかかってきた。しかしマユカは前転でひらりとかわすと、クリシアと同じく、上着の中から両手それぞれ細長い棒みたいなものを取り出す。

 棒についているスイッチを押すと、その先端から桃色の光が伸びる。最初は少々いびつな形だったが、伸びきることには、それぞれ刃の形状となった。正確には、峰の部分が柄と同じ黒灰色で、刃の部分が桃色に光る。まるでエネルギーが凝縮された双剣を、マユカは堂々と構える。

「さて、いっちょいきますか・・・!」

 マユカの一言と同時に、デノンの頭からレーザーが飛び出す。そしてマユカは、クリシアがつけていたシールドよりも半径が小さいものを両腕に起動させ構えた。レーザーはうまく、彼女のシールドではじき返された。

 すかさずマユカは双剣両方でデノンの体を斬りまくる。効き目があるかのように、デノンは悲鳴をあげる。

 蝶のように舞い、蜂のように刺す。双剣の扱いやすさを最大限の武器にして、マユカはデノンを翻弄し続ける。思わずタクトは、その戦闘に釘付けになった。

 しばらくすると、デノンは瀕死よろしく、動きが鈍り始めた。

「とどめね!」

 マユカはそこで、2つの双剣の端同士を合わせ、ブーメランの形状にした。

 そして彼女は目をつぶり、深呼吸をすると・・・。彼女の体から発せられた青い光が、うでへと、そして双剣の方へと移動するのがわかった。

 そして、その青く光った双剣を、思い切りデノンに投げる!

 ギャース!

 人が投げたとも思えない剛速球の双剣ブーメランによって、デノンは真っ二つになり倒れた。

 タクトと同じ、深呼吸すると発動した、まさしく魔法のようなものだった。

 間違いない、彼女も同じ、『時空魔法』の使い手だと、タクトは理解した。

 マユカはすぐシールドを発生させる腕輪のボタンを押す。宙のブーメランはまた剛速球でマユカの手元に戻り、マユカがキャッチすると、ふう、と息をついた。

「どう? すごいでしょ?」

 息切れ一つなく、彼女はシールドと双剣の刃を消すと、タクトたちにウィンクを決めた。

「いやー、こんな大きいデノンと戦うのは初めてだったけど、ギルの動きをまねしてみたら案外いけてよかったよ。あ、ギルってのはギルガメルのことね・・・」

「危ない!」

 とっさにタクトは、危機が迫っているマユカに向けて走り出した。

 彼は深呼吸し、「へ?」と目を丸くするマユカをかばう。そしてその場所に、残っていたデノン頭部からのレーザーがかすめた。

 クリシアは銃のレーザーを数回、素早く頭部に当てると、デノンは体ごと砕け散った。

 マユカは最初きょとん顔でタクトを見ていたが、笑顔に戻る。

「ありがとう、なんか慣れた手つきだったね」

「・・・まあ、こうやるのは本日2回目だからな」

 マユカはそれを聞くと、察したのかすぐニヤニヤ顔をクリシアに向けた。クリシアはその意味深を遮るかのように、ため息交じりで言う。

「だから最後まで油断するなって言ってるでしょ・・・?」

「ごめーん。でもシアもありがとう!」

 タクトの腕から離れると、そう言いながらクリシアに無遠慮のハグをした。

「やっぱシア大好き。かわいいし綺麗だし、かっこいいし・・・」

 クリシアはまた始まったかといわんばかりの表情で、そのハグに身を委ねていた。

 タクトはここでふと、ドアのところに目を向ける。

 やはり、デノン兵数体がこちらに向けて迫ってくるのが見えた。すぐさまマユカとクリシアもそれに気づき、自分の武器を構える。

「デノン・・・! まだ生き残ってたのか」

「大丈夫大丈夫。この調子で倒しちゃおう!」

「キリがないわね、全く。タクト、そこにあなたが持ってた銃があるわよ」

 クリシアが顎を向けた方向に、ネオテラム戦時のタクトのマシンガンが立てかけてあった。すぐタクトは取りに行き、戻るとすぐさまそれを構えた。

 デノンはじりじり迫ってくる・・・と思った矢先、その背後から何かしら爆発音が響いてきた。とっさのことに、デノン達の足も止まる。

 そして、何者かのレーザーによって頭を次々狙われ、瓦礫と化していった。

 そしてすべてのデノンが倒れた際、その主は、スコルトだということがわかった。両手にそれぞれもっているのは、ピストル。しかもそれぞれの下部に、反対になったピストルがまた取り付けられている珍しいものだった。うち尽くすとくるっと銃を上下に回転させ、また発射する、永久機関をイメージしてしまう感じ。

「先ほど侵入してきた戦闘機に爆弾を仕掛け、破壊してきた。これでもうデノンは入ってこないだろう」

 聞いた3人は安堵の息をつく。スコルトは自身のマントを翻し、華麗なガンアクションもふくめて、銃を腰のホルスターにしまった。

「ところでマユカ君、映像の方は撮れたかな?」

「うん、バッチリ!」

 マユカは計器の1つに駆け寄ると、なにやら操作をし出した。そして傷つきながらもまだ稼働しているスクリーンに、おそらくこの船内用の監視カメラの映像が映し出される。しかも複数モニター、同時公開だ。

 しだいにタクトが映っているもので、それぞれの映像はまとめられていった。

 先ほどの砲塔内の映像、戦闘機突撃の際クリシアをかばう映像、銃を撃つクリシアに右手を添える映像、襲われるマユカをかばう映像、そしていつ撮ったかわからない(おそらくギルガメルだと思うが)、ネオテラムでタクトがデノンのタンクを破壊する映像。

「よく撮影する暇があったもんだ・・・」

 タクトは頭をかきながら、その映像を見る。

 共通するのは、タクトが『時空』魔法を発動しているということだ。スコルトの言うとおり、映るタクトの10メートル以内のカメラには、そのほかの物体が約2分の1のスローモーションに見え、10メートル以上離れているとされるカメラには、逆にタクトが2倍速で動いているように見える。

「カメラの視点によって、タクトの『魔法』が変わるの面白いね!」

「これが『相対性理論』というものかしら? 時間の感じ方は、異なる立場で大きく違ってくる、っていう」

 マユカとクリシアが口々に言う。ここでようやく、タクト自身も『魔法』がどういうものかを客観的に理解することが出来た。

「君の『魔法』はもちろん、助けようとする心もあいまって、今回の危機を乗り越え、輸送船を救うことが出来た。『クラナス』、『クロノス』とも言われる君の『魔法』は、訓練次第でもっと伸ばすことが出来るだろう。皆それぞれの能力で、このデノンを倒し宇宙を救いたい。α機関の長として、私はそう思ってる。君はどうだ? タクト君」

 スコルトの言葉に、タクトはうつむいて考え込む。

 しかし、すぐさま、前のアースと輸送船の映像を、タクトは見据えた。

「その前に1つ聞かせてほしい」

「君は何者か、についてだろう?」

 スコルトの問いに、タクトはそのままゆっくりと頷いた。

「私と同じだよ、タクト。ついでにシアのパパとも。ね?」

 マユカはクリシアの肩に手を置きながら言った。クリシアはそれを気にも留めず、タクトと同じアースを見つめている。

 これからに対する一抹の不安はあった。しかし今は、自分を、自分の能力を信じてみたい。 目の前のアースの青い輝きが、先ほどとは違って見える。

 覚悟を決めたタクトに、スコルトは微笑んで、明かした。

「君は異世界転生者だ。邪悪な『アンゴルモア』なる存在からこの宇宙を救うために、3年前に遣わされて来た存在だ」

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