第9話 鐘の音

「みんなも知っての通り、

わしは年が変わる

23:59から0:00にまたいで鐘で時を刻む。

毎年のことだが、

年を超えるには難義なことだ。」

「俺様知ってぞ。鐘の音は都中に響くからな。

しかし、マサル達、ヤタガラスは熊野の山奥だろう。音が届くのが難しいんじゃないか。」

リキが怒りながら、「こらこら、天神さんところの自動おみくじの金髪獅子舞キリくん。

今の発言は撤回してもらいたいな。

ちゃんと鐘様の年越しの鐘の音は聞こえるぞ。

熊野は都から遠く離れたみやびではない、

遠いところのようだと聞こえたぞ。」

「?」

フウマが「リキ、何をムキになっているんだ。獅子舞キリは僕らよりずいぶん若い、

物事を知らない。

それこそ、獅子舞キリにとっては初めての修学旅行だからな。

もっと分かりやすい言葉で話してあげないといけないぞ。」

フウマが俺様の方を見直して

「リキは、熊野は都から遠い。

田舎だなって、キリに馬鹿にされたと思って怒ったんだ。」

俺様は「ばかにはしていないぞ。

それに俺様は熊野には行ったことがない。

ここからどれくらい遠いのかも近いのかも知らないぞ。

ただ山だといっていたから

車や人間達の雑音で聞えないじゃないかなと思っただけさ。」

フウマがにっこり。「そうか。そうか。」と言って今度はリキの方を見て。

「ほらね。獅子舞キリは熊野のことを田舎だとばかにはしてなかっただろう。」

「そうだな。ごめんキリ。悪いように決めつけて、お前の言葉を聞いたようだ。」

「いやいや。俺様こそ、言葉が足りなかったようだ。すまない。」

マサルが「やれやれ。誤解は解けたようだな。せっかくだからキリ教えておくよ。

この鐘様の鐘の音はもちろん普通の人間達にも聞こえる。

それにどんなに離れていても我々、神にも音は届くんだ。人間は耳で音を聞く。

僕らは波長振動の電波で聞くんだ。」

「神様だけの波長の電波?」

「さっきの八坂神社の青龍の境界線や今、ここの鐘様の木枠の中の境界線のように人間とは別の次元で音は伝わるんだ。」

「へえー、すごいな。俺様は錦の天神さんの狭い境内の中だけでしか生活していない。

他の神様や神様使いと話す機会もなかった。

外の世界は広いし、でもみんなつながってるんだな。すごいな。」俺様は心から感心した。

「鐘様はみんなをつないでいる。すごいな。」

鐘様が「わしは褒められたのかな。ホホホホ。では、そろそろ、わしの話をはじめるかな。」

「はい。お願いします。」

「さっきも言ったが、年越しの鐘の音を出すことは大変だ。

もちろん実際、鐘をついてくれるのは人間の修行僧侶たちだ。

良い音色をついてもらって感謝している。

もちろんお互い様で修行僧侶たちもわしに感謝しているようだ。

現実的な側面は特に問題はないのだが。

最近、ここ数年、特に23:59から0:00に時の境に揺らぎがある。

神聖な時の空間に人間の願い事が多すぎて浸食されて、鐘がの音が重い。

もちろん、人間の邪悪な願いは音にはのせない。がしかし、小さな時間空間を使って強引にわしの鐘の音に侵入してくる。」

「俺様はいつも天神さんの境内で丑さんや狛犬さんたちみんなで鐘様に除夜の鐘の音を聞いているがいつもいい鐘の音だよ。」

鐘様が「獅子舞キリ。いい音と言ってくれてありがとう。

獅子舞キリよ。お前は心の清い獅子舞だな。

鐘の音は受け取る側で音が違ってくる。

きれいな心にはきれいな音が届く。

醜い心のものには醜い音が届く。

鏡合わせなんだよ。除夜の鐘の音は。」

「知れませんでした。俺様はまた一つ、新しいことを覚えたぞ。

鐘様、ありがとうございます。」

「それは良かった。それで若いお前さんたちにお願いがある。

醜い心の人間がそれぞれの陣地。神社や境内に入ってきたら浄化してくれ。

小さなことも積み重ねると大きな力にになる。」

マサルが「鐘様、分かりました。肝に銘じます。」

俺様もみんなも「分かりました。」

マサルが「では鐘様、僕らは修学旅行での続きでこれから清水様へ行きます。また会いに参ります。」

鐘様は「あい。わかった。清水にヨロシクな。ヤタガラス。天神の金髪自動おみくじ獅子舞キリよ。」

俺様たちは礼をして知恩院の鐘様の境界線を出た。

また人間界の音が聞こえだした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る