白の翳/銅の雨

palomino4th

side.A 白の翳

道のない雪の中を歩く。

一面の白に音のない景色。

時間の針もてつき歯車も固くなった。

名前のない、音を吸い込む無限の白。

私たちの言葉も吸われていく。


世界で最も低い土地へ降りていく。

私たちの造物主が作りたもうた自然でありながら命ある魚をこばみ続ける湖への静かなダイブ。

この地上の最も低い場所、流れ込んだ海水は蒸発し塩が残る。

塩の濃すぎるその水に魚たちは住めない。

命を地上に残し私たちは沈んでゆく。


降る雪が足跡を消していく。

歩いてきた過去は埋められ沈む、私たちは過去のない人間になる。

生まれながらにあやまちを背負う私たち、あらかじめ恥を身にきざまれた存在。

否定され彼らの論理で消し去られる程度の値打ちしかない。

私たちはかつては滅ぼされる側であり、滅ぼす側にも立った。

そして貴方たちは永遠の傍観者で共犯者。

血肉を分け合った肉親さえも私たちは敵にできる。


水面に肉体を置き去りに、魂は沈んでゆく。

もう心配することもない、私たちの永遠の安息地。

心のない身体は不幸せを感じることもない。

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