強面な転校生は問題児ではなかったようです
ある日の放課後。
カナメは、職員室の前で緊張した面持ちで立っていた。
「えーと……担任から“相談がある”って言われたけど……なんだってんだ」
ドアをノックして入ると、担任の佐藤先生が真面目な顔でこちらを見ていた。
「カナメ、ちょっと頼みがある」
「また変なお願いじゃないですよね……」
「……いや、今回はマジで困ってる。転校生のスズキくん、どう思う?」
「え? スズキ……ですか」
カナメの脳裏に、教室の隅で無表情に座る大男の姿が浮かんだ。
無口。常に目つきが鋭い。体格は高校生離れしていて、制服のボタンは第2ボタンから上がなぜか常に閉まっている。
そして転校初日に持っていたカバンは、なぜかボストンバッグ。重そう。
「……すごく、怖いです」
「だよな!? でも、別に悪さしてるわけじゃないし、授業もちゃんと出てる。でも誰とも話してない。クラスも先生も、ちょっと警戒してるんだ」
佐藤先生は真剣だった。
「それで、例の“ユイちゃん”に……話を聞いてもらえないかと」
数分後。
屋上の隅、ひとりでベンチに座っているスズキを見つけたカナメが、そっと声をかけた。
「スズキ……だよな?」
スズキはゆっくり顔を上げた。見下ろすような目線と無表情。
「……なんだ、お前ら」
その声に、カナメは一瞬たじろぎ、ユイの方をちらりと見た。
「……今回ばかりは、帰るか?」
声は低くて渋い。野太い。
カナメはユイをちらりと見て、小声で言った。
「……今回ばかりは、帰るか?」
ユイは首を横に振った。
その瞬間、スズキの表情が変わる。
「……ユイちゃん、か」
「えっ」
スズキはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと口を開いた。
「……その、なんか……最近……クラスで……」
低くて聞き取りにくい声。カナメが身を乗り出す。
「え、なに? クラスでなんかあった?」
「……別に、悪く言われたとかじゃ……ないけど……みんな避けてる……気がする、たぶん……」
カナメはユイに視線を送ってから、スズキの方を向く。
「つまり、怖がられてる自覚はあるけど、自分じゃどうしたらいいかわかんないってことな?」
スズキはコクンとうなずいた。
「……ユイちゃん……どうすれば、みんなと……仲良くなれるんだろう……」
ぼそぼそとつぶやくような声。マジで聞き取りづらい。
「え? 今なんつった? 仲良くなりたいって?」
「……いや……その……別に、嫌われたくて無口やってるわけじゃ……ないんだけど……」
カナメは眉をひそめた。
「え、じゃあなんで黙ってんだよ」
「……しゃべると……なんか……うまくいかない……あと……低い声が……自分でも怖い……」
自覚はあった。
そのとき、スズキはおもむろに制服のポケットをごそごそしはじめた。
「な、なに!? 何取り出す気!? 警戒するぞ!?」
出てきたのは……小さな絆創膏。しかも柄付き。
「……さっき、転んでた女子いたから……あとで渡そうと……」
「こまっけぇな!!」
「……あと、音楽の時間にピアノの椅子引こうとしてたやつ、ずれてたから直しといた……」
「気配りの妖精かよ!!」
カナメが叫ぶ。
スズキは静かに言った。
「……怖がられてるからって……優しくするの、あきらめたくない」
カナメ、ついに叫んだ。
「おまえ、めちゃめちゃいいやつかよ!!」
カナメは、思わず口を開けて見ていた。
「……え、え? ちょっと待って、ギャップすごすぎんだろ」
スズキは静かに笑った。
「あと、保健委員やってる。掃除の時間、率先して雑巾がけもしてる。見られると照れるから、裏でやってるけど」
カナメの頭がパンクしかけた。
「なんでそんなこと、誰にも言わないんだよ……」
「だって、俺、しゃべるの苦手なんだ。無口ってだけで怖がられるし、見た目で誤解されるし」
「それ全部、逆効果だからな!?」
スズキはうつむいた。
「ユイちゃん……どうすれば、みんなと仲良くなれるんだろう」
ユイはただ、静かにスズキの話を聞いていた。
その数日後。
スズキはやはり相変わらず無口で、教室の片隅にいた。だが、その存在感がじわじわと変わり始めていた。
ある日、花粉症で鼻をすすっていた女子生徒のもとに、スズキが無言で近づいた。
「ひっ、な、なに……」
緊張で身を引く彼女の前に、スッ……とポケットティッシュが差し出された。
「……風邪、気をつけて」
翌日、手を洗った後タオルを忘れた男子が呟いた瞬間、背後から無言でハンカチが差し出される。
「……えっ、スズキくん!? こ、こわ……って、ありがと」
「濡れたままだと冷える」
さらにその翌日、消しゴムを落とした男子が机の下をのぞき込んでいたら、
「うわっ、スズキ!?」
気づいたら拾った消しゴムが目の前に置かれている。
「……落としたぞ」
給食の時間。女子が白衣の紐をうまく結べず困っていたところ、後ろからスズキがスッと近づき、黙って紐を結んでくれる。
「え、あ、スズキくん!? ……ありがとう……こ、怖いけど優しい……」
ひとつひとつに毎回ビビられるが、最後にはかならずこうなる。
「いいやつじゃん……」
別の日、教科書を忘れた男子がポツリとつぶやいた。
「やっべ、また忘れた……誰か見せて……」
すると、斜め後ろのスズキが教科書を無言で差し出してくる。
「……こ、怖……え、ありがとう」
「今日はここ、後でノート貸す」
また別の日、椅子から落ちかけた女子が「あっ」と声を上げた瞬間、後ろからスズキが片手で背中を支える。
「大丈夫か」
「びっくりした! ……あ、ありがとう……」
さらに放課後、黒板消しを忘れていたクラスの男子が焦って戻ろうとしたその瞬間、黒板前に無言で立つスズキの姿。
「……消しといた」
「こ、こいつどこまで気が利くんだよ……」
もう毎回、クラス中のリアクションが一定化していた。
そして教室の後ろでそれを見ていたカナメが、思わずこぼす。
「なんだこれ……ユイ、やっぱお前、なんでもありだな」
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