第48話 決意の光

「貞子さん。」

栞の叫びが、虚ろな貞子の意識の奥底に届いた。微かに瞼が震え、その瞳に一瞬、感情の光が宿る。

「まだ、貞子さんの意識が残っている!」

栞の言葉に、舞子は強く頷いた。封印は最後の手段。まだ可能性が残っているなら、別の方法を試す。舞子は瞬時に判断を下し、封印を止め、この場に貞子を留めるための結界を張ることに切り替えた。舞子は額に汗を滲ませながら、震える手で持っていた海門の石を地面にそっと置いた。そして、古くから伝わる羽田の巫女の血に刻まれた呪文を唱え始める。その声は低く、しかし力強く森に響き渡った。石から放たれる柔らかな光が、井戸と貞子を優しく包み込み、まるで透明な壁のように周囲の空間と隔てていく。栞は貞子の傍らに駆け寄り、その冷たい手を握った。「貞子さん、聞こえる?私よ、栞!舞子姉さんも来てくれたわ。あなたは一人じゃない!」

結界が張られ、貞子の周囲から不吉な気配が薄れていくのを感じながら、舞子は力を込めて呪文を紡ぎ続けた。しかし、貞子を蝕む影はまだ深く、結界は完全に安定しない。舞子の体力は限界に達し、視界が歪み始める。「くっ…まだ…」。その時、舞子の脳裏に、母から託された木箱と、その中にあった磨かれた石の記憶が鮮明に蘇った。「本当に困った時に開きなさい」。母の言葉が、舞子の背中を押した。舞子は残る力を振り絞り、懐からその石を取り出した。満月が輝く夜空の下、その石は神秘的な光を放ち始める。舞子は石を貞子に向け、祈るように両手を合わせた。「貞子さん…あなたの光を…取り戻して!」舞子の切なる願いが、石の光に乗って貞子の心へと注ぎ込まれていく。その光は、貞子の瞳に宿っていた空虚な光を打ち消すように、徐々に温かい輝きを帯びていった。

再び貞子は、眠るように地に倒れた。

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