第27話 禁足地

沖津宮の禁足地へと足を踏み入れた舞子と鳴海は、息を呑みました。そこは、外界とは隔絶されたような、静かで神秘的な空間でした。ごつごつとした岩肌に囲まれた洞窟の中央には、舞子の夢で見たものと同じ、青白い光を放つ奇妙な形の石が鎮座していました。石の周囲には、古代文字のような複雑な模様が幾重にも刻まれ、壁面には、祈りを捧げる巫女たちの姿が色褪せた壁画として残っています。

「これが…母さんが言っていた『光』…」

舞子は、手のひらの白い石をそっと祭壇のような岩の上に置きました。すると、二つの石は共鳴するように、さらに強く輝き始め、洞窟全体を柔らかな光で満たしました。

その瞬間、舞子の脳裏に、再び鮮明な映像が流れ込んできました。今度は、先ほど見た巫女だけでなく、何人もの巫女たちが、この場所で祈りを捧げている光景です。彼女たちは皆、悲しみを湛えた表情をしていますが、その瞳には、強い決意と、未来への希望の光が宿っていました。

映像の中で、最初に舞子に語りかけてきた巫女が、ゆっくりと手を伸ばし、祭壇の石に触れます。すると、石から溢れ出した光が、巫女たちの身体を包み込み、やがて、彼女たちの意識のようなものが、白い石の中へと吸い込まれていくのが見えました。

ハッと息を吐き、舞子は目を開けます。祭壇の二つの石は、先ほどよりも穏やかな光を放っています。

「鳴海さん…わかったわ。この石は…ただの石じゃない。歴代の巫女たちの…記憶と祈りが宿っているんだわ」

舞子の言葉に、鳴海は驚きを隠せません。

「巫女たちの…記憶?じゃあ、奈緒を助ける方法も、その中にあるかもしれないのね!」

二人は、希望に満ちた表情で祭壇の石を見つめます。しかし、その時、洞窟の奥から、冷たい、まとわりつくような気配が忍び寄ってくるのを感じました。

「…何か来る」

鳴海の警戒した声に、舞子も身構えます。洞窟の奥の暗闇から、ゆっくりと姿を現したのは、変わり果てた奈緒でした。その瞳には、以前の優しさは微塵もなく、代わりに、冷酷で嘲弄的な光が宿っています。黒い靄のようなものが、彼女の周囲を取り巻き、異様な雰囲気を醸し出していました。

「姉さん…見つけたよ。あなたたちが隠していた『力』をね」

奈緒の声は、以前の彼女のものとは全く異なり、低く、ねっとりとした響きを持っていました。それは、彼女を支配する影の声でした。

「奈緒…!やっぱり、あの影に操られているのね!」

舞子は、悲痛な叫び声を上げ、妹に駆け寄ろうとしますが、奈緒を取り巻く黒い靄が、それを阻みます。

「無駄だよ、姉さん。私はもう、あの忌まわしい感情と一つになった。この力があれば、世界を変えられるんだ」

奈緒(を支配する影)は、歪んだ笑みを浮かべ、両手を広げました。すると、洞窟の壁面に描かれた巫女たちの壁画から、黒い影のようなものが這い出し、奈緒の身体へと流れ込んでいくのが見えました。

「やめて、奈緒!」

鳴海が叫びますが、奈緒は聞く耳を持ちません。彼女の身体から、さらに強い負の感情が溢れ出し、洞窟全体を覆い始めます。舞子は、手のひらの白い石を強く握りしめました。今こそ、母から託された導きの光を信じ、奈緒を救い出す時だと、強く感じていました。

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