第10話 食えば食うほど

 『双頭牛鬼』の肉を使った様々な料理が運ばれてくる。

 討伐証明のため探索者協会に提出した部位を除けば、牛1頭分よりも遥かに多くの牛肉を手に入れたため、今回のお食事会は牛肉料理がテーブルに置ききれない程並ぶ、肉肉しい食事会となった。


「ローストビーフとステーキにハンバーグ…肉づくしだね」

「『大角牛』の討伐から『双頭牛鬼』の討伐だもの。でも安心して。『双頭牛鬼』のお肉は『大角牛』とかよりもあっさりして食べやすいから。勇次郎さんも沢山食べてくださいね」

「うむ」


 そう優梨花が言うように、極上の食材に彼女の料理の腕が相乗された牛肉料理たちは、無限に食べられると思ってしまうほど絶品である。


 しかも『双頭牛鬼』ほどの食材を優梨花ほどの『料理人』が調理すれば、それによって出来る料理を食べることで得られるバフも凄いことになる。


「いやー、食べれば食べるほどお腹が空くなんて経験をこの歳でする事になるなんてな」

「バフによる強化が凄すぎるせいで、食べれば食べるほどエネルギーが消費されお腹ぎ空いてしまう。より食べられる=バフを重ねられると考えれば理に適っているんですかね?」


 気が付けばテーブルを占領していた料理は次々に胃袋の中に消えていくのであった。


◆◆◆


 お腹がいっぱいというより、身体が掛けられるバフに耐えきれなくなったという意味での満腹となってしまったため、残った料理は調理を終え満足げな優梨花と青葉が食べることとなった。


「うーん、やっぱり角煮はもう少し下味をしっかりした方が良かったかしら?」

「そうですか? これくらいの方が他の料理も…っとすみません。協会から?」


 料理の感想を言い合いながら料理をつついていると、青葉の端末が鳴る。相手は青葉の職場である探索者協会からであった。

 青葉は首を傾げつつ電話に出る。


「はい? え、…分かりました。至急向かいます」


 通話中どんどん青葉の表情が曇っていき、通話を終える頃には苦々しい表情を浮かべていた。

 その表情の変化を心配した優梨花が声を掛ける。

 

「青葉ちゃん、大丈夫?」

「あ、はい。申し訳ありませんが急遽仕事が入りまして」

「仕事?」

「はい…たぶんネットニュースか何かには、はいこれです」


 青葉は端末を操作しネットニュースの記事を見せてくれる。その記事の内容は先日ニュースになっており、現在勇作が現地に行っている福岡のダンジョンブレイクの状況悪化を伝える記事であった。

 

【ダンジョンブレイク中のダンジョンに女王種出現か?】


「女王種? 女王蜂とかの一種かしら?」

「そうですね。大体の理解としてはそれで合っています」


 女王種の特徴はその繁殖能力にある。際限なく繁殖を繰り返し膨大な数の兵隊を産み出す女王種は、ダンジョンブレイク中のダンジョンにおいて、一番出現して欲しく無いモンスターの1つである。


 話を聞いていた秀樹も会話に参加してくる。


「…確か福岡のダンジョンブレイクは『小鬼ゴブリンの洞窟』に『小鬼王ゴブリンキング』が出現したんだよね? それに加えて『小鬼女王ゴブリンクイーン』も出現したんだとしたら『氾濫』するのも時間の問題かもしれないね」


 ゴブリンたちを強化したり統率したりすることに秀でた『小鬼王ゴブリンキング』と、数を爆発的に増やせる『小鬼女王ゴブリンクイーン』がいれば、その群れの脅威度は跳ね上がる。

 対応が遅れれば、近いうちにダンジョン外にゴブリンたちが溢れてしまうだろう。

 協会も対応に追われることとなり、その結果皺寄せが青葉の所にまで来た様子であった


「そのため、応援要因として私も福岡に行くことになりました」

「あらそうなの…私たちも応援に行ければ良いのだけど」

「うん? 行ければって何か用事とかあったけ?」

「ほら、ゴブリンって美味しく無いのでしょ?」

「あ、そういうことか。優梨花はぶれないね…」


 そんな青葉を不憫に思いつつ、優梨花は平常運転なのであった。 

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