第8話 お食事会
秀樹と優梨花の2人による『双頭牛鬼』討伐のニュースは、探索者業界に衝撃を与えた。
高位探索者でも少人数で『双頭牛鬼』を討伐するのは難しいとされている中、2人での討伐、しかもその内の1人が探索者に成り立てのジョブ『料理人』である事が、より人々を驚愕させるのであった。
「不満そうね? 名が売れるのは探索者にとっては良い事じゃ無いかしら?」
「…まあそうだけどね。実際『双頭牛鬼』討伐の貢献度なら優梨花の方が高いのに、周りが実質僕のソロ討伐、なんなら守る対象がいる中で討伐したって見られるのはね」
秀樹は単独討伐では無い旨を強調したが、色々とぼかして説明したため、奥さんも立てる秀樹という見られ方すらされてしまう。
かといって『料理人』が『炎槍』を中華鍋で防いだだの、『仮想キッチン』で解体しただのと言う衝撃映像を赤裸々に公表したところで信じて貰えないだろうから、受け入れるしかない。
「まあでもあの感じなら秀樹さん単独でも『双頭牛鬼』討伐できていたと思うわよ? 実際『仮想キッチン』に乗せてくれたのは秀樹さんなんだし」
「僕単独だと魔法が厳しいとは思うけど。でもそうだね。過大評価を受けたなら、それが適正になるよう頑張るしかないか」
受け入れた上で努力する事を誓い、秀樹個人の問題は解決となる。
「でも優梨花の功績を奪う形にはなっちゃったし、何か埋め合わせをしないとね」
「別に私としては秀樹さんの名が売れて、美味しいモンスター討伐の話がくる方が嬉しいからいいわよ…あ、そうだわ。それなら明後日なんだけど時間あるかしら?」
優梨花としては、探索者としての実績など欠片もいらないので、逆に秀樹にいってくれて有難いくらいであるが、ちょうどお願いしようとしていた事があることを思い出す。
「明後日? 別に暇だよ。何か用事?」
「ほら、探索者就任祝いに勇次郎さんから色々と貰ったじゃない? それのお礼に『双頭牛鬼』のお肉でご飯を振る舞う予定なのよ」
「明後日なんだ。中々急だね。それで?」
「さっき青葉ちゃんから連絡があって、出来ればその席に秀樹さんも同席出来ないかって、勇次郎さんが仰ったそうなの」
「そうなんだ。…うん、大丈夫だよ」
急な誘いではあるが、秀樹としてもお世話になっている勇次郎の誘いである。断る理由もないため、秀樹は快諾するのであった。
◆◆◆
「勇次郎さんお久し振りです。本日はお招きありがとうございます」
「いやー、秀樹くん、優梨花さん。よくいらっしゃった。ゆっくりしていってくれ。仕事で息子はいないが、青葉さんならもう台所の方で準備をしているよ」
勇次郎の邸宅に招待された秀樹と優梨花。
既に青葉も来ており、料理の準備を始めていた。
「あら、勇作くんは来ていないの?」
「福岡で発生したダンジョンブレイクの対応での、昨日から向こうに行っているようだ」
「そう言えばニュースでやっていましたね。大変だ」
「残念ね。でも『双頭牛鬼』のお肉は保存がきくらしいし、青葉ちゃんに持って帰って貰えばいいわね」
勇次郎に挨拶を済ませると、優梨花は青葉が待つ台所に行ってしまい、客間には秀樹と勇次郎だけが残る。
しばらくは、当たり障りのない会話が続いたが、勇次郎が本題を切り出す。
「さてと、今日秀樹くんに同席を頼んだのはだね、少し紹介したい者がいたからなんだ」
「紹介ですか?」
「うちの会社で見習いとして面倒を見ているヤツなんだけどね。これが中々面白いヤツなんだ。優梨花さんに送った竜刀包丁もそいつが仕入れてきた代物なんだよ」
「なるほど! それにしても勇次郎さんが面白いって言うなんて相当なんですね。もしや『サイトウ』の後継者候補ですか?」
仕事に対しては厳しい勇次郎が褒めるのであれ有能な人物なのだろう。
勇作が探索者協会に就職し敏腕を振るっている今、勇次郎の後を継ぐ候補なのかと秀樹は考えた。しかしそれには勇次郎は首を振る。
「あやつは近々、うちを辞めて商業系探索者として独り立ちする予定なんだ。もともとそのためにうちの見習いもやっていたしな」
「商業系…なるほど。中々大変な道を」
「まあ探索者として活動するならそれしか道が無いとも言える」
「道が無いというと、ジョブが生産系とかですか?」
「いや、ジョブは『商人』だよ」
「『商人』! それは…」
ジョブ『商人』は優梨花の『料理人』よりも外れジョブだと言われている。
ダンジョンでのレアドロップ率の上昇や、『鑑定』の下位互換的なスキル『目利き』などダンジョン探索に不向きな能力ばかりな点がそう言われる理由である。
探索者として活動する上で実績を上げるための、単純明快な方法であるダンジョン探索が行えないため、わざわざ商業系探索者になるくらいであれば、探索者としてではなく、ダンジョン関連会社の社員として働く方が楽に稼げるだろう。
それがわかった上で探索者になろうと言う者に秀樹も興味が湧く。
「でも、目的のためにもうちを辞めて探索者になるんだってよ。面白いだろう?」
「ええ。その方の名前は?」
「来馬柊っていうんだ。覚えといてくれ」
勇次郎は自慢するようにその名前を口にするのであった。
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