第26話 生きる道

「…。」

また、あの惨劇を繰り返した。どうしたらいい?みんな死んじゃうからみんなで逃げようと思っても失敗する。あたしは知ってる、雪は頑固だし意固地でもあるから何度説得しようとしても何も変わらないと思う。だから、みんなで逃げるという選択肢はほぼないということになる。

「どうしたらみんな生きられるの…?」


「「「「ごちそうさまでした。」」」」

考え続けてもう昼ごろになった、なんにも思いつかないまま時間は過ぎていく。考えた挙げ句あたしはこう考えた。

出かけて夕方になるとみんなが死んでいるのならば、夕方になる前に帰ってみんなが生きている時に戻ればいいんだと。お夕飯のおかずがないから買い物は行かないといけないから、行かないという選択肢は正直…ない。

「よし…買い物行ってくる。」

「いってらっしゃい。」「いってらしゃー!」

「行ってきます。」

挨拶でさえもなんだか切ない。もう…あたしおかしくなっちゃったよ。


「こんにちわ、鈴ちゃん。今日も一人?」

「はい、今日は鶏肉…お夕飯チキンステーキにするので…」

「鶏の胸肉ね、了解。えっと4つだと…」


梅谷さんとの会話もそこそこに、商店街の散策も今はなしにして家路につく。でもそういう時に限って、通る道通る店で色んな人に声を掛けられた。会話をすぐ切り上げようとしても会話を続けられたり、終わったと思って歩き出すと別の人に話しかけられたりして、いつの間にか夕暮れになって…。

次こそはと早く買い物を切り上げて商店街を早足で駆け抜けても急に激しい頭痛に襲われて途中の公園で休まざるを負えなくなって、ベンチで横になるといつの間にか寝落ちして夕暮れになったり…。

その次は帰り道で何度も行く道通る道で人だかりやら道塞ぎやら怖い人達がたむろしてたりだとかでめちゃくちゃ遠回りして家につく頃には夕暮れになってたり…。

何度も何度も繰り返しても、商店街を焦って駆け抜ける時にぶつかって面倒事を増やしてしまって夕暮れに、いっそのことお肉ではなく魚にしようと魚屋さんに行っても長話につきあわされて夕暮れに、挙句の果てには商店街でゴミを踏んで盛大に転んで

足を捻って帰るのが遅くなって夕暮れに…。


なんど頑張って早く帰って間に合うようにしようとしても。結局いろんなことが重なって遅くなる。もういっそのこと出かけないほうがいい。そう思って、あたしはついに覚悟を決めた。

”買い物には行かず、家に残ってみんなと一緒に死ぬ。”

そうすれば寂しくないし、もしかしたらみんな守れるかも知れない。そう決めて、やり直した。


朝起きて、いつもと同じように着替えて、髪を結わえて、神社の周りを走る。走り終わったら休憩して、雪が起き出す頃に掃除をし始める。

雪と何気ない会話をして、時間を過ごす。

それから朝ごはんを食べて坐禅を組む。やっぱり今回も集中できずに雪の式神に日っぱ叩かれまくった。だって、今日が命日なんだもん。怖くて仕方ないでしょ…。

「終わったー…。」

「お疲れ様。」

「おつかれー!」

「…雪隣の部屋?」

「…かも。お皿洗ったあとどっか行っちゃったから。」

「…。」

マリーの返事の後、あたしはさり気なく隣の部屋に続く襖の方へ歩みを進める。

「雪くんたぶん隣の部屋でなんかしてんじゃないかな?物音するし。」

「ふーん…。」

「…なんか書いてるっぽいし邪魔しないほうが…って聞いてる?」

「んー。」

マリーに生返事を返しながら襖を開けた。

「レイ…?!」

「雪、御札書いてんの?」

「…習字してるだけ。」

「へー…障子とか畳汚さないでよねー。」

そう一言声を掛けてマリーたちのとこに戻った。

「雪くん何してた?」

「習字だってさ。だから汚すなって一言言ってきた。」

「へぇー…雪くんも風情あることするんだねぇ。」

「雪っていうか、あたしは雪に習字を教わってんだけどね。」

「ふーん。」

一個一個の会話を大切に生きる。この日のうちに日常これが終わってしまうなんて信じられない。この結末に不満があるかと言われればもちろんあると答える。でもどうしようもないから、避けようがないから。あたしだけ生き残ったって虚しくてきっと辛いだけだから。みんなとともに、今日で終わりにする。


お昼になって買い物に行く時間になっても、あたしは出かけない。

「あれ、レイ今日買い物は?」

「行かない。」

「え、そうなの。」

「だから今日は外食にでも行こうかなって思ってて、」

「え!?外食?!ウナ外食だってさ!」

「わーお!すごぉい!」

「なんでそんな驚く…。」

「や、だってほらいっつもレイ自炊自炊って感じで外で食べようとか言わなかったじゃん。」

「あー、それはちょっと面倒だったから。」

「え〜…。」

「だって商店街にいい感じの食べるとこないし、商店街よりももっと先の方に行かないとあんまり良いとこ無いから、それなら自炊のほうが効率いいなと思っていつも言わなかっただけ。…あと、お金ないから…。」

「わー…まじかぁ…。」

「別にいいでしょ。あたしたちこんな辺鄙な神社にいるんだし、足腰は鍛えられてるんだから辛くないって。」

「ま、そうだね。…やったねぇウナ!外食なんて何年ぶりかな?」

「ウナも行けるの?!わーい!!」

「一応言っとくけど、ちゃんと耳隠してよ。」

「もっちろん!」

外食行くっていうだけでこの喜びよう…これからはちょっとずつ外食にしていこうかな…あ、そうだ…今日で終わりなんだった…。

つい考えても無駄な未来の話を考えてしまった。なんだか虚しくなるなぁ…。

「雪、それでもいいよね?」

「…うん。」

雪は相変わらず縁側で黄昏れている。少しその姿を眺め、ある決意をしてお茶を入れに行く。

「レイなにしに行くの?」

「お茶入れる。」

「私達の分も〜、お願いしますっ!」

「…いいよ。」


「はい、お茶。熱いからやけどしないように気をつけて。」

「ありがと。」「ありがと!」

マリーとウナちゃんのお茶をちゃぶ台に置いて、雪の湯呑みとあたしの湯呑みをお盆に乗せながら縁側まで移動する。そして、お盆を置いて縁側の雪の隣に腰掛ける。

「…?」

「はい、お茶。熱いから気をつけてね。」

「…ありがと…?」

雪はいつもはしないことをあたしがしたから困惑しながらも茶を飲んだ。あたしもただただ雪のためにとお茶を入れてきたわけじゃない。

二人ともお茶を嗜んで、ほっこりしたところであたしは隙を見て踏み込んだ。

「ねぇ、今日何が来るの?」

「…。」

その言葉に雪の瞳が揺れた。態度には出さないくせにそういうところはわかりやすい。

「知ってるよ、何が来るのか。」

「…何にも来ないよ。」

「嘘だ。知ってるよ、あたしは。」

「じゃあ、何が来るの?」

「え〜?…じゃあ一緒に言おうよ。今日来るやつ。」

「…いいけど?」

よし…!!

「じゃあ、せーのっ…」

「…。」」「…。」

ふたりとも黙りこくったまま何も答えなかった。

「なーんで言わないのよ!」

「だって何にも来ないもん。」

「…。」

かくして、殺してくるやつを聞き出すという計画は水の泡となった。

「もー、雪のイジワル!」

「イジワルくない!」

ドガッ…ドンッ、ガラガラガラ…

「!!」「何!?」

二人でいがみ合っていると神社の入口辺りからけたたましい音が聞こえた。何が来たのかと覗いてみると3mもありそうなほど大きな大きな鎧をつけた武士のような影のような妖怪が神社に入り込んでいた。その影の肩にはいつぞやの不思議な少女が乗っていた。

「えっ!?レイ今何が起こってんの!?」

「こわい!!」

「落ち着いてふたりともっ…」

何あいつ…!?それになんであいつの肩にあの子が…!?

「ちっ…。」

「!?」

舌打ちをしながら雪は隣の部屋から御札、大幣などを持ち出して境内に出ようとしていた。

「ちょっと雪!?…うぁっ…!?」

「鈴たちはそこに居て!!俺が片付ける!!」

飛び出そうとしたあたしを雪は後ろに突き飛ばした。

「いったた…ちょっと!何すんのよ!」

後ろに突き飛ばされて反射的に目を瞑ってしまって、次目を開ける時には雪がその妖怪の長い刀に貫かれ、持ち上げられていた。ちらりと見えた少女は雪の方に手を伸ばしてなにかしているようだった。

「雪くん…!!」

「っ…!!!雪っ!!!」

「…。」

少女は絶望するあたしたちの方にゆっくりと視線を向けて、雪に伸ばした手を今度はウナちゃんの方へ伸ばした。

「…え?」

「ウナっ…!!」

立ち尽くすウナちゃんにマリーが覆いかぶさるように飛びつく。

「いらない。」

少女がそう呟いた途端、少女の周りに青白い光の槍が現れマリーたちに飛んでいく。

「…ぁがっ…!?」「…ぅっ!!」

「…!!!」

雪に突き飛ばされたところからあたしは動けないままみんなが息絶えていく様子を見るしかできなかった。

「っ…っ…っぁ…。」

過呼吸気味になりながらもあたしはそいつらの様子を視界に捉え続けていた。

「もういいよ。虚武者うろむしゃ。」

そう言い少女は影に支えられながら縁側に降り立った。

「あーあ…あなたが居ない時を狙って来てるのになんで今回はいるの?」

「…なんで…」

少女の言葉を聞いてあたしは呼吸を落ち着かせて言葉を投げかけた。

「ん?」

「なんであたしを殺さないの…?」

「…”なんで”?」

「殺してよ…あたしも!!あたしも殺してよ…!」

「…どうして?死にたいなら勝手に自決すればいいでしょ?方法はいくらでもあるのに。」

「…。」

「自決する覚悟もないなら殺せない。」

「…はあ?自決する覚悟があるなら殺してくれるの?」

「勝手に死ねばいい。」

「…なにそれ。」

「死ぬ覚悟も持たないやつを殺すほどお人好しじゃないの。」

「…じゃあさ…一つだけ教えてよ。」

「?」

「あんたが連れてきたやつ、何なの?」

「あれは、虚武者うろむしゃあるいは鎧武者。」

「…。」

「そういえば、もう御札なくなってる頃だと思ってたくさん持ってきた。使って。」

「…。」

30枚ほどの分厚い御札の束を受け取る。

「今回は特別、もったいないから私がやってあげる。」

「じゃあ、蓮内鈴、次は頑張ってね。」

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