第50話 雪解けの言葉と、始まった未来
夕日が差し込む、誰もいない教室。
俺の、震える声での告白。
そして、陽菜さんの、涙に濡れた最高の笑顔と、確かな頷き。
「……夢、みたいだ。」
どちらからともなく、そんな言葉がこぼれた。
陽菜さんは、まだ少しだけ瞳を潤ませながら、でも本当に嬉しそうに、俺を見つめている。その手には、俺が作ったフォトブックが、大切そうに抱えられていた。
「私も……信じられない。相川くんが、同じ気持ちでいてくれたなんて……。」
陽菜さんの声も、まだ少しだけ震えている。
俺たちは、しばらくの間、言葉もなく見つめ合っていた。気まずいとか、そういうのじゃない。ただ、胸がいっぱいで、言葉が出てこないんだ。
今、この瞬間の陽菜さんの表情を、全部、写真に撮っておきたい。でも、今はカメラを構えるよりも、ただこうして、陽菜さんを感じていたかった。
「……あのさ。」
俺が、ようやく口を開く。
「これから……その、俺たち……。」
「うん……。」
陽菜さんが、こくりと頷く。その頬は、夕日のせいだけじゃなく、きっと赤く染まっている。
「……よろしく、お願いします。」
俺がそう言うと、陽菜さんは「こちらこそ……よろしくね、相川くん」と、はにかむように笑った。
その笑顔だけで、もう何もいらない、って思えるくらい、俺の心は満たされていた。
「……帰ろっか。」
「うん。」
二人で教室を出て、廊下を歩く。
いつもと同じ帰り道のはずなのに、今日は何もかもが違って見える。
校舎の壁も、窓から見えるグラウンドも、全部がキラキラと輝いているみたいだ。
並んで歩くと、時々、お互いの腕がほんの少しだけ触れ合う。そのたびに、心臓がドキドキと大きく跳ねて、顔が熱くなるのを感じた。陽菜さんも、きっと同じなんだろうな。時々、俺の方を盗み見ては、すぐに視線を逸らしている。
駅までの道すがら、俺たちは、ぽつりぽつりと、でも途切れることなく言葉を交わした。
いつからお互いを意識していたのか、なんていう、少し恥ずかしい話もした。俺が体育祭の時からずっと陽菜さんを目で追っていたこと。陽菜さんが、俺の写真を見て、いつの間にか俺自身に興味を持つようになっていたこと。
その一つ一つが、今の俺たちにとっては、愛おしい思い出だ。
「春休み、もうすぐだね。」
ふと、陽菜さんが言った。
「うん。」
「もし……よかったら……。」
陽菜さんが、少しだけ言い淀む。
「春休み、どこか……一緒に出かけたり……しない?」
その言葉に、俺の心は、春風が吹き抜けたみたいに、温かくて優しい気持ちでいっぱいになった。
「……行く! 絶対行こう! いろんなところに、写真撮りに行こう。陽菜さんと一緒に。」
俺が力強くそう言うと、陽菜さんは「本当? やったー!」と、子供みたいに嬉しそうな声を上げた。その笑顔は、俺が今まで見てきた中で、一番無邪気で、一番可愛い笑顔だったかもしれない。
駅の改札で、俺たちは別れた。
「じゃあ……また明日ね、陽菜さん。」
「うん! また明日、相川くん!」
いつもと同じ挨拶。でも、その響きは、もう昨日までとは全く違う。
俺は、陽菜さんの後ろ姿が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。
一人になった帰り道。
胸に抱えた、陽菜さんからの手編みのマフラーと、カメラのキーホルダー。
そして、心の中には、陽菜さんの笑顔と、「私も好き」という言葉。
世界が、こんなにも鮮やかで、こんなにも優しくて、こんなにも愛おしいものだったなんて、今まで気づかなかった。
俺の日常は、ファインダー越しに見つけた君の笑顔によって、色鮮やかに変わり始めた。
そして今、その君が、俺の隣で、同じ未来を見つめてくれている。
これ以上の幸せなんて、きっとない。
春は、もうすぐそこまで来ている。
雪解けの季節。
そして、俺と陽菜さんの、新しい物語が始まる季節。
俺は、溢れ出しそうになる喜びを噛み締めながら、春色の未来へと続く道を、しっかりと踏みしめて歩き出した。
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