第42話 初詣の奇跡と、おみくじに願う未来

新しい年が明けて、元旦。

キリリと冷えた空気は、新しい年の始まりを告げるように清々しい。俺は、陽菜さんが編んでくれたマフラーをしっかりと首に巻き、家族と一緒に近所の神社へ初詣に向かっていた。

陽菜さんとのLINEでのやり取りを思い出す。『もしかしたら、どこかでバッタリ会っちゃったりしてね!』なんて、冗談めかして言っていたけれど、心のどこかで、そんな奇跡みたいなことを期待している自分がいた。

神社は、年の初めの特別な熱気に包まれていた。

晴れ着姿の人、家族連れ、友達同士のグループ。たくさんの人々が、新しい年への願いを胸に、長い列を作っている。甘酒の湯気が立ちのぼり、お守りを売る巫女さんの声が響き渡る。

俺も家族と一緒に、賽銭を投げ入れ、二礼二拍手一礼。目を閉じて、心の中で静かに祈った。

(今年も、家族みんなが健康でありますように。そして……陽菜さんと、もっともっと、仲良くなれますように……)

お参りを終え、家族がお守りを選んでいる間、俺はなんとなく周囲を見渡していた。ものすごい人混みだ。こんな中で陽菜さんに会えるわけないよな、と自分に言い聞かせながらも、視線は自然と、楽しそうな女の子たちのグループを探してしまう。

その時だった。

「きゃはは! 美咲、それひどーい!」

人混みの向こうから聞こえてきた、鈴を転がすような、聞き覚えのある明るい笑い声。

まさか、と思ってそちらに目を向けると……いた。

華やかな赤色のコートに、俺があげたスノードームのキーホルダーがさりげなく付けられたバッグを肩にかけた、陽菜さんが。隣には、黒いコートをシックに着こなした美咲さんもいる。

「……白石さん!」

思わず、声が出た。

陽菜さんも、俺の声に気づいてこちらを振り向く。そして、俺の姿を認めた瞬間、その大きな瞳が驚きでさらに大きく見開かれ、次の瞬間には、満開の花のような、最高の笑顔になった。

「相川くん!? うわー! 本当に会っちゃった! すごい偶然!」

陽菜さんは、少しだけ興奮した様子で駆け寄ってくる。美咲さんも、驚いたような、でもどこか面白そうな表情で後に続いた。

「明けましておめでとう、白石さん、美咲さん。」

「明けましておめでとう! まさか本当に会えるなんてね!」

「おめでとう。あんたたち、引き寄せ合う何かでもあるんじゃないの。」

美咲さんが、いつもの調子で茶化してくる。陽菜さんは「もう、美咲ってば!」と顔を赤らめていた。

「せっかくだからさ、みんなでおみくじでも引いていかない?」

美咲さんの提案に、俺も陽菜さんも頷く。

四人(俺の家族も合流した)で並んでおみくじを引き、ドキドキしながら開いてみる。

俺は……「小吉」。

『待ち人:遅れて来るが良い知らせあり』『恋愛:誠意を尽くせば道は開ける』

悪くはない。むしろ、なんだか今の俺にぴったりのような気がして、少しだけ勇気が湧いてきた。

陽菜さんは……?

「やったー! 大吉だって!」

嬉しそうに声を上げる陽菜さんのおみくじには、『恋愛:思いがけない出会いが、幸せな未来へ繋がる』と書かれていた。

「思いがけない出会いって……もしかして、今日のことかな?」

なんて、陽菜さんは無邪気に笑っている。その笑顔が、俺には何よりも眩しかった。

おみくじを結び所に結びつけ、少しだけ境内を散策する。

陽菜さんが、「私ね、今年もみんなが笑顔でいられますようにってお願いしたんだ。それと……相川くんの写真が、もっとたくさんの人に見てもらえますように、って、こっそりお願いしちゃった!」と、いたずらっぽく笑って教えてくれた。

「ありがとう、白石さん。俺も……白石さんが、毎日笑顔でいられるようにって、お願いしたよ。」

思わず、そんな言葉が口をついて出て、陽菜さんは一瞬驚いた顔をした後、嬉しそうに「ありがとう」と囁いた。

やがて、それぞれの家族や予定もあり、俺たちは名残を惜しみながらも別れることになった。

「じゃあ、また学校でね、相川くん!」

「うん。白石さんも、美咲さんも、良いお正月を。」

手を振って別れた後も、俺の胸の高鳴りはなかなか収まらなかった。

初詣での、奇跡みたいな再会。陽菜さんの、あの嬉しそうな笑顔。一緒に引いたおみくじ。

まるで、神様がくれたお年玉みたいだ。

新しい年が、素晴らしい一年になる。

そんな確信にも似た温かい気持ちを胸に、俺は澄み切った冬空を見上げた。

三学期が始まるのが、今から待ち遠しくてたまらなかった。

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