第31話 文化祭の喧騒と、カフェのエプロン

文化祭当日。

校門をくぐると、そこはもう昨日までとは全く違う世界が広がっていた。

色とりどりのアーチ、手作りの看板、風船、そして様々なクラスや部活動の出店の呼び込みの声。甘い食べ物の匂いや、どこかのステージから聞こえてくるバンド演奏の音が混じり合い、学校全体が巨大なテーマパークになったみたいだ。

俺は、首から下げた一眼レフの感触を確かめながら、期待に胸を膨らませて自分たちの教室へと向かった。

2年B組――「想い出フォトカフェ」。

教室の入り口には、陽菜さんたちがデザインした温かみのある看板が掲げられ、中からはコーヒーのいい香りが漂ってくる。

「あ、相川くん、おはよう!準備万端だよ!」

俺が顔を出すと、クラスカラーのTシャツの上にシンプルなカフェエプロンを身に着けた陽菜さんが、満面の笑顔で迎えてくれた。その姿は、普段の制服とも、体育祭のジャージとも、夏祭りの浴衣とも違う、活発で、それでいてすごく可愛らしい。

「おはよう、白石さん。うん、すごくいい感じだね。」

「でしょ? さあ、開店準備、最終チェックしよっか!」

開店時間になると、早速お客さんがやってきた。

最初はまばらだった客足も、口コミが広がったのか、すぐにカフェは賑わい始めた。

壁一面に飾られた写真を見て、「わあ、綺麗!」「この写真、すごくいいね!」と感嘆の声を上げる人たち。自分たちのクラスメイトが写っているのを見つけて、楽しそうに指をさすグループ。

俺は、主に写真展示のコーナーに立って、時々お客さんに写真の説明をしたり、撮影の裏話をしたりした。自分の写真が、こうしてたくさんの人に見てもらえて、喜んでもらえる。それは、今まで感じたことのない、大きな喜びだった。

そして、俺の目には、カフェの中を生き生きと動き回る陽菜さんの姿が何度も映った。

「いらっしゃいませー! こちらのお席へどうぞ!」

「ご注文は、特製ブレンドコーヒーと、手作りクッキーですね! 少々お待ちください!」

太陽みたいな笑顔で接客し、テキパキとオーダーをこなし、時にはお客さんと楽しそうに談笑する。彼女がいるだけで、カフェ全体の雰囲気が明るくなるようだった。

(すごいな、白石さん……)

俺は、そんな陽菜さんの姿を、時々ファインダー越しに捉えた。

お客さんと笑い合っている瞬間。

真剣な表情でコーヒーを淹れている横顔。

広報係として、これらの瞬間を記録するのは当然の役目だ。でも、それだけじゃない。俺は、ただ、彼女の輝いている姿を、もっと見ていたい、もっと残しておきたい、と思っていた。

昼過ぎ、カフェが少しだけ落ち着いた時間帯。

陽菜さんが、「相川くん、お疲れ様! これ、よかったら」と、一杯のコーヒーとクッキーを俺のところに持ってきてくれた。

「え、いいの? ありがとう。」

「ううん、カメラマンさんも休憩しないとね。みんな、相川くんの写真、すごく褒めてたよ。」

そう言って微笑む陽菜さんのエプロン姿は、やっぱりすごく似合っていて、俺はまた顔が熱くなるのを感じた。

午後になると、健太が数人の友達を引き連れてやってきた。

「よお! なかなか盛況じゃんか! 相川の写真、マジで見応えあるわ。白石さんの接客も神レベルだしな!」

そう言って、一番高いドリンクとデザイトセットを注文していく。美咲さんも後から一人でふらりと現れ、静かにコーヒーを飲みながら写真を見て、「まあ、悪くないんじゃない」と、彼女なりの賛辞をくれた。

あっという間に時間は過ぎ、閉会時間が近づいてくる。

最後のお客さんを送り出し、俺たちは「本日の営業は終了しました」の札を入り口にかけた。

「「お疲れ様でしたー!!」」

教室中に、クラスメイトたちの安堵と達成感に満ちた声が響き渡る。

レジ係が集計した売上は、予想をはるかに上回っていたらしい。

「やったね、相川くん! 大成功だよ、私たち!」

陽菜さんが、興奮冷めやらぬ様子で、俺の肩を軽く叩いた。

その瞳は、達成感と、心地よい疲労感でキラキラと輝いている。

「うん……本当に、よかった。」

俺も、心からの笑顔で頷いた。

大変だったけど、すごく充実した一日だった。

そして何より、陽菜さんと一緒に、この場所で、この瞬間を共有できたことが、たまらなく嬉しかった。

「明日も、この調子で頑張ろうね!」

「ああ、もちろん!」

二人で顔を見合わせ、力強く頷き合う。

文化祭一日目。

たくさんの笑顔と、温かい思い出が、また一つ、俺たちの心に刻まれた。

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