第20話 夏色のファインダーと、ひまわりの便り

待ちに待った夏休みが始まって、数日が過ぎた。

朝寝坊できる解放感、鳴り響かないチャイム、宿題以外の予定が真っ白なスケジュール帳。最初は最高だと思っていたけれど、単調な毎日は、それはそれで少し手持ち無沙汰にもなってくる。

家の手伝いをしたり、溜まっていた本を読んだり、カメラの手入れを念入りにしたり。そんな風に過ごしていたけれど、むくむくと湧き上がる衝動があった。

――写真を、撮りに行きたい。

夏の日差しを浴びて輝く、特別な景色を、この手で切り取りたい。

そして……撮った写真を、陽菜さんに見せたい。

俺は、夏休みが始まる前に調べていた場所の中から、最初の目的地を決めた。少し遠いけれど、電車を乗り継げば行ける距離にある、広大なひまわり畑。ちょうど今が見頃らしい。

天気予報を確認し、カメラバッグに必要な機材を詰め込む。バッテリーは満タン、メモリーカードも空き容量は十分だ。

翌日、俺は早起きして電車に乗り込んだ。

車窓から見える景色が、徐々に都会の喧騒から緑豊かな田園風景へと変わっていく。目的地の最寄り駅で降り、バスに乗り換えてしばらく走ると、視界いっぱいに鮮やかな黄色が広がった。

「……うわぁ。」

思わず、声が漏れる。

青い空の下、太陽に向かって力いっぱい咲き誇る、無数のひまわり。

夏の象徴のようなその光景は、圧巻だった。

俺は夢中でカメラを構え、シャッターを切った。

どこまでも続くひまわりの黄色い絨毯。

一輪一輪の、太陽みたいな明るい表情。

花びらに止まるミツバチや、青空とのコントラスト。

ファインダーを覗きながら、自然と陽菜さんの顔が浮かんだ。

(陽菜さん、ひまわり好きかな……)

(この景色を見たら、きっと、あの太陽みたいな笑顔を見せてくれるんだろうな……)

彼女の笑顔を思い浮かべながら、俺はシャッターを切る。ひまわりの持つ、明るくて前向きな雰囲気を、なんとか写真に込められないか、試行錯誤しながら。

夢中で撮影していたら、あっという間に時間が過ぎていた。

額には汗が滲み、夏の強い日差しに少しだけ体力を奪われたけれど、心地よい疲労感と、たくさんの写真データという収穫があった。

帰り道の電車の中。

俺は早速カメラのモニターで、撮った写真を確認した。

その中から、特に綺麗に撮れたと思う一枚――青空を背景に、ひまわりが生き生きと咲いている写真――を選び出す。

スマホを取り出し、LINEを開く。

陽菜さんのトーク画面を開き、写真を添付する。

どんなメッセージを送ろうか、少しだけ悩んで、こう打ち込んだ。

『今日、ひまわり畑に行ってきたよ。約束通り、写真送るね。夏、感じてくれると嬉しいな。』

送信ボタンを押す指が、少しだけ震えた。

既読がつくのを待つ時間は、いつも長く感じる。

しばらくして、スマホがピコン、と軽快な音を立てた。陽菜さんからの返信だ。

『わーーー! ひまわり!! 🌻 すっごく綺麗!!!』

『夏だねー! 見てるだけで元気出る! ありがとう、相川くん!』

画面いっぱいの感嘆符と、キラキラした顔文字、そしてひまわりの絵文字。その反応に、俺の頬が自然と緩む。

『どこにあるの、このひまわり畑? 私も行ってみたくなっちゃった!』

『〇〇だよ。ちょっと遠いけど、すごく綺麗だった。』

『へえー! いいなあ。暑くなかった? 大丈夫だった?』

『暑かったけど、楽しかったよ。陽菜さんは、夏休み、どう?』

『私は相変わらずだよー。昨日、美咲とアイス食べに行ったくらいかな(笑)』

そんな、たわいないメッセージのやり取り。

学校で隣に座って話すのとは違うけれど、文字を通して、陽菜さんの声や表情が伝わってくるようだった。

約束を果たせたこと、そして陽菜さんが喜んでくれたこと。それが、たまらなく嬉しかった。

写真が、俺と陽菜さんを繋いでくれている。

夏休みという、会えない時間の中でも。

次に撮るのは、どんな景色だろう。

そして、どんな写真を、君に届けようか。

ファインダー越しの世界が、夏の日差しを受けて、前よりももっと輝いて見えるような気がした。

始まったばかりの夏休みが、たくさんの可能性を秘めているように感じられた。

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