第32話 生意気コンビと優しい先輩②


 それから、なんとか魔力コントロールの訓練が一区切りつくと、里織先輩が次の訓練内容を告げる。


「次は、目を閉じて、相手の気配だけで攻撃を避ける練習よ。集中力を高めないと、実戦では一瞬でやられてしまうわよ~」


 そうして始まった、恐怖の目隠し土くれ避け。

 ソールが飛ばしてくる小さな土くれを、目を閉じたまま避け続ける。


「痛っ!」とか「きゃっ!」というような、あたしと美々歌の悲鳴が庭に響き渡った。


 当然、普通に当たるし、全然避けられない。


《芽衣亜、頑張れ!》


《……高度な訓練ですね。ですが、実戦における索敵能力と反射神経の向上には不可欠でしょう。効率的です》


《……主の指導なら、きっと二人もできるようになります》


 宝石獣たちの応援が届くが、被弾はなかなか減らない。

 そんな中、里織先輩のアドバイスが聞こえてくる。


「二人とも、もう少し魔力の流れを意識しましょう。周囲の魔力をもっと感じてみて? もっと意識を向けてみて? 相手が攻撃しようとする時、ほんの少しだけその魔力の流れが変わったり、殺気のようなものが指向性を持ってこちらに向かってきたりするはずよ。それを肌で捉えるようなイメージで……」


 そのアドバイスを受けて、四方から土くれを受けながらも、一度動きを止めて魔力を探ってみる。


《ソール、今アドバイス受けてるんだから、ちょっと抑えようぜ!》


《……そう、ですか……?》


《いえ、実際に例がないとわからないでしょう。このまま続けてよいはずです》


 フォルビー達がうるさい!

 ……けど、フォルビー達の声がする方向が、ぼんやりと魔力があるように感じる。


 これは、フォルビーの魔力であってる? じゃあ、これがルカかも? ということは、こっちがソール? この大きなやつは里織先輩と美々歌?


 土まみれになりながらも、魔力の感覚を探っていると、もっと小さな魔力の動きが感じられるようになってきた。


 これ、あたしの足に向かってきてる……!


「ここ!」


《おお! ナイスだ芽衣亜!》


「当然! 完璧にものにして見せるから見てなさい!」


 まだ完璧じゃないけど、ほぼ被弾はなくなってきた。


「……え、どうやってよけ――んむっ!」


 美々歌の声が途中で途切れた。

 たぶん顔に当たって土が口に入ったんだと思う。


「み、美々歌ちゃん、大丈夫!?」


 里織さんの焦った声が聞こえる。


《美々歌、大丈夫ですか?》


《……すみません……途中で、止めたら、よかったです……》


 美々歌のほうにルカとソールが近寄っている感覚も把握できた。


「ほら、お水を持ってきたから、これで口をゆすいで?」


《見事に顔にクリーンヒットしたな! どんまいだ!》


 里織先輩とフォルビーも美々歌のほうに集まってきた。


 目を閉じたままでも、みんなの存在を魔力だけで感知できる。

 少しずつだけど、確かに成長している実感があった。


 ▽▽▽


 基礎訓練の後、里織先輩からの総評を聞く。


「美々歌ちゃんは、魔力のコントロールが上手ね。芽衣亜ちゃんは、魔力感知がバッチリでよかったわよ。二人とも、今日一日で予想以上に成長したと思うわ〜。私、びっくりしちゃった」


 実際に成長を実感できたし、褒められて悪い気はしない。

 ……でも、少しだけ消化不良な部分もある。


「里織先輩、実戦形式の訓練もしたいです!」


 あたしがそう言うと、里織先輩は少し困った顔をする。


「う~ん……。仕方ないわね~。じゃあ、少しだけよ?」


「よし! ありがとうございます!」


 私は、喜びを隠さずガッツポーズした。

 美々歌も心なしか嬉しそうに見える。


 ▽▽▽


 場所は変わっていつもの河川敷。

 フォルビー達は、何も言わずにあたしたちを見守っている。


「じゃあ、あなたたち二人で、私にかかってきなさい」


 その言葉と共に、里織先輩の纏う空気が変わる。

 普段のほんわかした雰囲気はどこへやら、強者の風格が漂っている。

 でも、飲まれたくない、気持ちで負けたくない。


「「いきます!」」


 あたしと美々歌の声が揃う。

 あたしたちは、そのまま里織先輩に向かって走り出す。


「あたしが先に切り込むわ! あんたは援護しなさい!」


 あたしは美々歌に声をかけ、得意の炎魔法を撃ちながら里織先輩に突っ込む。


「了解」


 美々歌も応じ、鋭い氷の矢を複数放ち、里織先輩の動きを牽制しつつあたしを援護しようとする。


 あたしたちは互いを意識し、連携攻撃を試みる。

 なんだかんだで、あたしたちの相性は悪くないのかもしれない。


「甘いわ」


 しかし、里織先輩は冷静にあたしたちの動きを見切っていた。


 あたしの炎の弾丸とあたしの突進を最小限の動きでいなしつつ、美々歌が放った氷の矢を、まるで予測していたかのように土の壁で的確に受け止める。

 そして、跳ね返った氷片を逆にこっちの足元に散らすという妨害もしてくる。


「なっ……!?」


 あたしは、足を止めざる負えない。


「そんな……私たちの攻撃が……!」


 意図せずとも、自分たちの攻撃が里織先輩に有利に働くような形になってしまい、あたしと美々歌の表情に焦りと困惑が浮かぶ。


 里織先輩は、そんなあたしたちの未熟な連携の隙を逃さない。

 広範囲に土の柱を突き上げてきて、あたしたちを攻撃してくる。


「そっちはダメ……!」


 美々歌の声により、避ける方向に失敗したことに気付く。

 土の柱が壁になり、あたしと美々歌が完全に分断された。


「く、美々歌ッ!」


 あたしは、足元に爆発の魔法を使って大ジャンプするが、壁の向こうで待ち受けていたのは――!


「終わりよ」


 里織先輩の槍だった。

 あたしの首元に添えられた里織先輩の槍……。

 里織先輩は、あたしが飛び越える地点を把握し、柱の上であたしを待ち受けていたのだ。


 美々歌のほうを見ると、土の柱に囚われている。


「…二人とも、個々の力は素晴らしいわ。でも、今のままでは、二人でいても一人ずつで戦っているのと同じ。それでは、本当に強い相手には通じないのよ」


 里織先輩の優しくも厳しい指摘が、あたしたちの胸に突き刺さった。


 完封だ……! 悔しい!

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