xx年後「慈愛にて送り、福音を贈る (2)」
「あ、リュークの番か!!久しぶりー!!」
狼牙のあと、次々に魂を来世に向けて対応したあと、強く印象に残った一人であるリューク=ヴァルデットの番となった。
最後まで相容れなかったものの、士郎の一番最初の好敵手であり、リュークの事情ではあったものの二人を助けた事があり、そして最後は紫苑に悔いなく討たれ・・・鈴が憐れむ事もなく満足した一人である。
「よぉ、嬢ちゃん。転生先を言えばいいんだっけか?
そんじゃ、まだ戦争してる所あったら適当に放り込んでくれや」
そして鈴が寿命を迎えるまでに用意されたスローライフを得ても、性根は完全に
《神様の領域に片足突っ込んでるような欲望抱えたバカなんてそんなもんだろ。
一回死んで、魂までスッキリ丸くなるなんて早々ない。
何処か性根では、やっぱ自分はこうでなきゃならないって感じるもんなんだよ》
狼牙が言っていた意味がよく分かる一人。
かく言う狼牙もそうで、他ならぬ鈴だってそうだ。
だからリュークの変わらなさに苦笑しつつ、それを受け入れた。
「仕方ないなー・・・。
あ、丁度男2人欲しい軍人の夫婦いるみたい!!
水戸風さんと兄弟でそこでいい??」
狼牙には先に伝えていたリュークと兄弟として転生するつもりであることを、リュークにも伝える。
「あー、まぁどうせ覚えちゃいないし、あのあんちゃんならそれなりに楽しいだろ」
スローライフ中も仲良く遊んだ二人である。
因縁もなくただ敵どうしだったから、殺し合いをしただけなのだが気が合うのだろう。
リュークも狼牙と同じく拒否はしなかった。
「はい、けってーい」
「おう。んじゃあな、楽しかったぜ嬢ちゃん」
久しぶりであり因縁もあったが、これで終わり。
清々しいほどお互い全く変わりなく、干渉する余地も無い。
転生に向けた扉をリュークは開き、あっさりと別れを告げて出ていった。
・・・そして更に暫く経ち
「次はピリオドちゃんと飛鳥パイセンだねー」
出生願望の現世の人リストをペラペラと見ながら迎える。
狼牙やリュークの時もそうだったが、現世で子どもを望む人は当然数多にわたり、更に"どんな子どもが欲しいか"というのも少なくない。
それと実際に転生する者の願望を合わせるのは、よりよい来世へと送り出すにあたってごく自然にたどり着いた方法だった。
そして次に2人揃って呼び出されたピリオドと飛鳥といえば
「多くは求めないかな、僕が歪んだのは黄金獅子の軍勢のせいだし」
「もうアハスヴェールが干渉しないなら何だっていいわ」
飛鳥は欲が無い。
というより、黄金獅子の軍勢が現れるまでは病弱で制限はあれど順風満帆だったからそれ以上を求めない。
紫苑と違い、彼は優秀なだけの普通の人だったから。
そしてピリオドもまた似たようなもの。
より強大な才能を見た。自身より優れたものを山ほど見た。
そんな環境下に現れたアハスヴェールの呪いの一言。
そんな狂うきっかけさえ無いなら、暗いながらもある程度は平和だったに違いないから。
彼女はただ、劣等感に苛まれた普通の人だったから。
狼牙の言う、よっぽどズタボロにされた後悔したか、やり直してみたいかのどちらか。
二人はまさに、それに該当している。
知れば知るほど、戦時に行ったことはさておき被害者な面が大きい。
だがしかし、一部聞き入れられないものはある。
「アハスヴェールが全く関わらないのは難しいかも、見守ってもらう役目があるし・・・
でも、干渉はしてこないとは思うよ!」
アハスヴェールには役割と約束がある。
よって残念だが、アハスヴェールと全くの無関係になるのは難しいかもしれない。
とはいえ、彼女になにかすることは無い。
ある意味、そういった信頼がアハスヴェールにはあった。
ショックを受けたピリオドだったが、干渉はしないと聞いて疑い半分ではあるものの安堵も半分と言った感じだった。
「じゃあ転生先は・・・飛鳥パイセンは紫苑さんの遠い血縁でー・・・
あ、その血縁の人が運営してる社員さん可愛い女の子望んでる!!
よし、それじゃあそこで───」
「ひぃっ!?」
紫苑の名前と、それに遠い関係の場所に送られそうになると知るとピリオドは複雑な表情から一変して青ざめた。
「待って!?あの吸血鬼のコンビが来たりしないわよね!?」
紫苑と烈黎によって無惨に殺された記憶が蘇る。
目の前の鈴にもコテンパンにされたはずだが、それ以上に紫苑たちに対するトラウマが強い。
同じく紫苑と決着をつけたリュークとはえらい違いである。
まぁ怒りのままに、恐怖と苦痛にまみれたまま文字通り細切れにされたとなれば仕方ないだろうが。
「わかんない!あとは運だよ!
いい子にしてれば大丈夫だって〜」
しかしこれはピリオドに対する監視もかねているし、実際悪いことしなければ大丈夫なはず。
それに紫苑に限らず現世に生きる者たちの人生に干渉はしたくない。
魂レベルのトラウマを刻まれた彼女に対しては気の毒だが、受け入れてもらうことにした。
「それにアンタら箱庭でくっそ仲良かったから、同じとこで働ける未来あったら楽しそうじゃん?
リューク達とは違って、両親別々だけどこれも運だ!」
それに何も意地悪の為にやる訳ではない。
紫苑に対してもう血筋による呪縛は無く、生まれ変わった兄は幸せになれるという証明のため。
何よりこの二人が揃えば平和に生きられるという、戦時では有り得なかった、《ちゃんとした出会い》が見られるかもしれないから。
「じゃ、行ってらっしゃい!」
多少強引だが、これでお別れ。
扉の先に強制的に二人揃って吹っ飛ばされる。
男は苦笑して、女は悲鳴をあげた。
次に現世を覗いた時は、笑顔でいてくれることを鈴は願うのだった。
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