After「残滓」
星屑の国───中立として表明しているその国は、平和な時間が流れている。
日本・・・大阪で神話のような戦いを演じた者たちも流れ着いてスローライフを送っている。
「平和だなぁ・・・」
蒼空鈴は自宅に診療所を構えているものの、暇な時は非常に暇だ。
軍に居た頃に問題児として右往左往していた頃とは比べ物にならない。
常連の患者が居ないこともないが、結局のところその日に寄るとしか言いようがなく
半日かけて誰も来ないなんて事は稀にある。
だからこうして家の屋根にのぼってのんびり寛いでいる。
海風に当たり、そして波を聴きながら。
「────卿の手にした平和だ。
今のうちに噛み締めることが、神に至る際の糧になるだろう」
時に、かつての宿敵の声を────
「そうだなぁ。神様になったら、あんたらを転生させ────て」
ぎぎぎ、と。
錆び付いたブリキ人形のように声の下方に顔を向けると
「なんでここにいるんだよぉおおお!?」
そこには、半透明になっている
軍勢といっても、首領であるレオンハルトと大阪での戦いで使徒になったことのある者達だが。
───────
「原因はある程度は割れている。
かのカミシロと呼ばれる国で、相互理解の星によって呼び出された我々が残滓として残ったのだろう」
───
距離や次元の壁を超えて、ルフトという少年が仲間を通じて様々な者と意識を繋げた。
その中には、一度だけ神になった鈴が魂の修復と輪廻転生の
緊急であり、鈴の無意識下で行われたせいか彼らが残滓としてまだ漂っていたということ。
だがしかし残滓である以上は、言ってしまえば"残りカス"。
彼ら本人であるというにはあまりに心許ない、成仏前の幽霊のようなモノ。
今まで存在が認知されなかったのも、残滓ゆえに彼ら自身も意識があってないようなものであり、もってあと数刻になったタイミングで少しばかりハッキリしたといったところか。
「とはいえ、やはり感覚としてはやはり夢心地でな。卿のカタチも朧けにしか認知できん。
そんな卿を認識できたのは、やはり卿の
これもやはり、本能に近い行為だ」
しかし寂しいものの、残滓だけあってもう少しで鈴の内に眠っている
混乱したがようやく事態を理解した鈴は安心したようにため息をついた。
「オレがなんかやらかしたと思ったじゃないか・・・」
「卿の過失では無いことは間違いなかろう。
折角だ、短い時間だが語らうとしようか」
それから、少しばかり鈴と軍勢の残滓たちは話をした。
主に、あのカミシロでの出来事だった。
「私は首領の命があったから手を貸しただけよ」
「僕もそうだけど、僕に意味があったことが嬉しかったかな」
ピリオドは居心地が悪そうに、ツンデレと思わせるような事を言い。
飛鳥はかつて全てを知らされ、役者として生きて死ぬ以外無いと絶望した時とは違い、自身の存在に意味があったと知った喜びを知り。
「戦えなさそうな嬢ちゃんが、護るために立ち上がったなんぞ俺好みだったなぁ!」
「護る事を知らぬ少女が、助けを求める声を聞き逃さずに護った。英雄は、ああいうモノだと私は思う」
ソフィアとルビィに感銘を受けたリュークとミハエルは力を貸した経緯を絶賛しながら話し。
「あの地雷女はマジでつまらねえ奴だったな。しかも
狼牙はメイビスの悲劇と堕ちた経緯を吐き捨てて、いま思い出しても腹立たしく感じるように語り。
「あの最後に立ちはだかった剣士も、見事な愛と戦いぶりだった。
今の
そして、それに立ち向かい止めた少年も見事だった。
彼らでなければ描けぬ愛だった・・・唐突に垣間見た夢だとしても、充分見応えがあったと言える」
ルフトとデイビッドの最終決戦を思い出し、レオンハルトはその思い出話を締める。
その戦いの当事者であった鈴は、それを微笑みながら聞いていた。
「・・・あの時も死にそうだったけど、実は嬉しかったんだよ。
オレたちはお互いどんな奴かを理解した上で、分かりあった上で、相容れなかった。
でも、あの時だけは・・・そんなしがらみも無く協力出来た」
大阪で黄金の軍勢と戦ったあの時は、使徒になった者達はみなド級に狂った者しかおらず、互いがどんな人物が理解しても決して手を取り合えないと結論を出さざるを得なかった。
けれど、カミシロの戦いでは違う。
一時の奇跡でも、肩を並べたようで・・・鈴にとってはある意味では救いだった。
「・・・蒼空鈴、私が死に際に語ったことは覚えているかね?」
そんな鈴に、唐突にレオンハルトは問いを投げた。
唐突さに鈴は目をまんまるにするが、すぐに思い出したようで
「・・・あんたらに勝った事実は安くない。オレたちの絆が絶対だったことを、示し続けなければならない。だったよね?」
「ああ、でなければ私は再び現れる・・・とも言ったな」
忘れていなかったことに満足気にレオンハルトは頷いた。
更にレオンハルトは続ける。
死に際で語りきれなかった事を補足するように。
「此度の事が起きぬ限り、"レオンハルト=ヘルツォーク"は今度こそ終わりとなる。
次の生を受けた私は、同じ名か同じ環境になるかは分からぬであろう。少なくとも、それは"今の私"とは違う」
寂しいことに、魂は同じでも辿り道が違う生涯を送ることになればそれは別人だろう。
それは鈴も、ちゃんと理解している。
「だが、魂が同じであれば・・・私はおそらく、やはり満たされぬ日々を送るのかもしれん。
そんな時、かつて私に勝利した卿らの神話が残るだろう。それに伴う教訓も」
レオンハルト達に限らず、鈴の
ならば、その際に必ず神話として彼女らの物語は残るし、教訓もある。
アハスヴェールもその手伝いをするというなら、尚更だろう。
「次なる私がそんな神話を覗いた時、満たされずとも人として生きるか・・・或いはその教えをまやかしと断じ、再び破壊の神と成るか・・・
それは、これからの卿次第だ」
勝者の義務────ちゃんと整理すれば分かる、その重さ。
だが、それは鈴にしてみればとっくに覚悟していた。
なぜなら彼女の
「・・・ありがとう、レオンハルト。
大丈夫だよ。わたしは、あんたらの戦いとこの思い出を胸に人として、そして神になっても大事にするから」
それを聞き、再びレオンハルトは満足気に頷いた。
かつての死に際での言葉に答えたのは士郎のみだったが、奇跡のような再会にて鈴からも答えを貰えた。
僅かな時間しか無い亡霊にしては、出来すぎた贈り物だろう。
レオンハルトを初めとして、全員の魂が鈴の
夢のような時間は、これでどうやら終わりらしい。
「・・・・・時間だな。卿ら、往くぞ」
次なる生に向けて、帰還する時。
各々が小さな光になって、鈴の中に取り込まれてゆく。
「今度はあの陰湿な奴に捕まらない生を寄越しなさい」
「僕も、僕だけの生涯が今度こそあるといいな」
「俺は好きにしてくれ!魂が一緒なら、派手なとこに自分から行くだろうよ!」
「貴様に任せよう。心穏やかに
「俺もそうなんだが・・・ま、それより士郎のこと、頼むわ。結構鈍臭いからよ」
使徒だった者たちは声ならぬメッセージを鈴に残し、取り込まれて
そして最後に───
「さらばだ、卿ら。
卿らの未来に、幸あれ」
今度こその別れとして、シンプルな言葉をレオンハルトは残した。
全てが再び鈴の
変わらぬ平和な時間・・・本当に夢のような時間だった。
「おい、鈴。客だ」
「お、いま行くー!」
しかしそれも終わり。
今晩の話題が決まった事を確信し、鈴の時間は現実に戻っていった。
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