第22章 忘れられた選択

街は、静かに回っていた。




供給される食糧。


割り振られる住居。


定められた労働。




人々は、何も選ばなかった。


何を求めることも、


何を拒むこともなかった。




ただ、与えられたものを受け取り、


指示された道を歩み、


擦り減ることにすら気づかずに、


静かに満たされていった。




ノアは、


その流れの中に立っていた。




だが誰も、


ノアに選択を求めなかった。




「ここにいるか、いないか」


「歩くか、立ち止まるか」


そのいずれにも、


何の意味もなかった。




キューブは、微かに脈動した。




けれど──


それすら、誰の眼にも映らなかった。




ノアは、目を閉じた。




選択は、もはや、


世界から忘れられていた。




ただ、


風もなく、


声もなく、


街は、回り続けていた。

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