間違えた選択

いやーホテルの朝食楽しみだなああ!


「マウンテンロードと志姫を引き剥がさないと」


ブラックシルクが急に焦り始めた。腹減ってるんだから勘弁してほしい。


「どうしたのシルク。流石の山田もレースのことを食ったりしないでしょ。尻に敷かれてそ」


「…あいつ敵なんだよ」


…ん?

山田が?…ん〜


「えっと、山田、つまりマウンテンロードが敵。ってことでおk?」


相変わらず彼から冷や汗は止まらない。

でも彼が敵とは思えない。俺らと一緒に行動するだけの実績と忠誠心は組織に示しているはずだ。


もしスパイだとしてもそれに気付くのがシルクだけとは思えない。

飴チョコとか、それこそレースから連絡が入るはずだ。


「シルク…お前は敵じゃないよな」


さらにシルクから血の気が消える。目の焦点がさらに定まらない。


敵だとしたら死ぬほど俺馬鹿にされてるけど…いくら俺が頭が良くないと言っても、こいつにしてはバカすぎるギャンブルな気がする。


でもシスコンだし、こうなるのも分かる気はするけど。

シルクの長いまつ毛がゆっくりと動く。


「あの、マウンテンロードは…」


「コーラシュリンプの、今のボスの、えっと」


血縁かもしれない。


ブラックシルクの口がそう動いた。


「 え?

    」


自身が漏らした声にも気づかないくらいには、それを聞いて動揺した。

血縁って?


シルクのよくケアされた長い髪の毛、誰がみてもモデルのように美しいと思う体。

高い鼻に綺麗な水色の丸目が焦燥で歪んで見える。



「これは確実。…コーラシュリンプの、ボスの兄がマウンテンロードだ」


「理由は?…なんで、なんで?」


水を頭からかけても優しくしてくれたお兄さんが、敵だとはどう考えても思えなかった。

でも目の前の男が妹可愛さに間違えるとは考えにくい。


あらゆる面で優秀と有名なイーゼルクラッシュ唯一の女装アサシン。


「…」


マウンテンロードではなくブラックシルクがスパイなのでは?


でもどっちがスパイだとしても決定打に欠ける。俺が直接みて直感的な違和感がなかった。だからこいつらは味方のはず。


シルクが口を開く。


「今は居ないものとされてるけど…コーラシュリンプのボス兄ってさ、片目義眼なんだよ。」


「…根拠が薄い」


「マウンテンロードってさ、金髪じゃん。ブリーチ。分かるでしょ、少なくとも志姫が危ないんだ」


俺の直感が間違えてる?

こーゆー時は間違えたことないのに。


「コーラシュリンプの、まあボスってか一条は、緑髪だからってことね。あー理屈は通るね」


…なあんかな。

取り敢えず殺す?


相手はキャンディー使用者だけど…俺なら殺せる。

嫌な予感はしない。


こいつを消しても消さなくても良いってこと。

んー。


「…うちの組織の教訓は?」


「そんなんなくても骨は埋める」


…正解だなー。教訓をわざわざ覚えてるうちは二流って言ってたもんボス。

理由は知らん。


「まあ、落ち着けって飯食おうぜ」


空気は重いままだった。


ーーーーーー


キャンディー視点


「ういーホテル到着!」


先ほどとは打って変わって空がどんよりと曇る。


ミンミンゼミがそろそろ来るはず。

戦闘訓練の続き…んー何やろうかな。


銃撃戦が苦手みたいなんだよな。


「ミンミンゼミー!さっさと来いよ!」


たったと走って、肩を組む。岩みたいに硬い筋肉質な体を服越しに感じる。


「…どうしたお前。」


えー全然喋ってくれない。

こいつ1日経ったら気まずくなるタイプではないし


「あっシルクと喧嘩でもした?」


わざと明るく煽る。でも帰ってきたのは暗い声。


「…喧嘩っつうか、んー。適宜報告するよ」


そんな難しい言葉知ってたんだ。


「…速やかにやれよ」


あー目が霞むわー。キャンディー使うと最近本当に調子悪い。


頭痛が痛い。メンタルの不調も輪にかかって酷いし、これと言った追加性能のないミント味も使えない。使ったら、死ぬ。


常時身体強化をしていないと、耐えられない。


生きるために寿命削ってんのマジでバカ。でも親友を救えるなら良くはない。良いわけねえだろ騙されたな馬鹿。


セミはまだ黙っている。


「…私この任務が終わったら死ぬんだ」


(嘘)


「飴チョコったら息をするように嘘をついて…お母さんに怒られるよ?」


(煽)


「怒られてた記憶しかないからオールオッケー」


「俺殴られた記憶しかない」


どんよりとした空模様とは対照的に、ケラケラとした笑い声が響く。


「…人生って草生える」


そか。


「除草剤いる?」


彼はちょっと悩んで


「二リットルお願い」


変なの。


「草」


除草剤よこせつってんだろ!ってセミが叫ぶ。



セミの言葉の裏には、ずっとホワイトレースの存在があった。

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