お兄ちゃんに何をしたの
車の窓に映ったに映った自分の顔とマウンテンロードの顔をぼんやり眺める。
ばちばちピアスと執事服って相性いいのね。
運転してると様になるわ
「ねえ、マウンテンロード。」
「どうしたホワイトレース。今回は山田呼びじゃないのか」
別にいいでしょ。山田呼びがお望み?
あれ…別に話すことない?
「話しかけたけど話すことがないってか?」
「…あたり。」
意外と女心わかるのね。遊んでそうなだけあるわ
…
意外と不服そうなマウンテンロード。なんで?
「いやあるだろ。ブラックシルクの…過去とか」
「何?」
なんで急にお兄ちゃんの過去探り入れるの?
「…なんかさ、あいつの顔見たことあるような気がするんだよ」
言葉を選んでる。
目線はハンドル手元と行き道を上下。
今まで見受けられなかった鼻を触るしぐさ
「…昨日男子部屋で泣いてたんだあいつ。」
「え」
ドライフラワーのような脆さを感じる声で、確認するように私に言った。
「言っていいのか迷ったけど…シルクは、珠莉って女の子の名前呼んでた。」
珠莉お姉ちゃん。
私が5歳の時イーゼルクラッシュの先輩アサシンに家族丸ごと惨殺された。その時に死んだ人の1人。
「腰の上まである銀髪が綺麗だったんだってね。あいつがそう言ってたよ。心から愛おしそうな顔してたよ。泣いてたけどさ!」
捲し立てるように話してる。
車は無感情に進む。
…なんでそんなことお兄ちゃんは言ったの?
珠莉お姉ちゃんのことなんて、2年に一回話すかどうかよ
マウンテンロードが何かを隠してる?
お兄ちゃんはそれで探りを入れた?それにしては断片的すぎる情報じゃない?
…しかも自分で殺した恋人の話なんて出さないでしょう?
お兄ちゃんの女装趣味だって、珠莉お姉ちゃんを追いかけてできたものよ。ずっと幻想を追い続けてる。
それを?つい数日前あったばかりのやつに言う?
…有り得ないわ。
「なんで今その話なの。」
…
泣きそうな顔してんじゃないわ
「答えなさい。良政。今は仕事中よ。」
答えないなら全方向から攻めてやるわ。どんな薄汚い手段使って、
お兄ちゃんの心を抉ったの?
なあ、マウンテンロード。
仕事の設定上の話だけどな?雇ってもらってるんだよお前は、主人に従えさっさと答えろ
頭がぐるぐるして熱が溜まる
感情が喉を切り裂いて出てきた。
「お兄ちゃんに何をしたの!」
…
長い沈黙。
……
喉がいたい
…
「…ごめん」
殺す
ナイフはすでに掴んでいた。
でも、もうコーラシュリンプ第四支部に着いてた。
「美杉お嬢様、手を。」
手慣れたエスコート。
組織で仕込まれたのか、私のような元華族のような由緒正しき家庭出身か。
せめて10歳まで私がまともに教育を受けていれば見分けれたのに。
無力感で怒りは一旦落ち着いた。
こうやって考えてる間に、こいつがスパイって気付けなかった自分に吐き気がする。
お兄ちゃんは気づいてたのに。
「有難う。」
お兄ちゃんと…
お兄様と、おかあさまと、メイドたち。
家族みんなに教わった昔ながらの方法でエスコートを受けた。
さて、今から私はお姫様。
箱入り娘のお人形よ
私は美杉里恵。
家を救うためここにきた。
さあ、何秒で試験官全落ちさせようかしら
お手頃価格(十万円)のスーツでも
でも今は里恵だから。自信なさげに、でも誇らしく歩いて育ちを示して採用されるの。泣いて喜び、
敵の首掻っ攫うの
お兄ちゃんの妹は、誰より可愛くて頭が良くって、スタイル良くてきちんと合理的。
でも里恵ちゃんは顔が良いだけの天然さんだから。全部演じ切る
それからマウンテンロードは殺す。
「階段です。お気をつけ下さい。」
「ええ。」
支部のエントランスは洗練って言葉が最初に浮かぶ空間だった。
青と木材を基調としててアクセントに大理石。最近の流行りって雰囲気。支部でこれなら本部はどんだけ金かかってるんだか。
受付嬢にマウンテンロードが話しかける。
私は椅子にでも座ってましょ
「今日面接を受ける美杉里恵様の使用人、良政建人です」
「はい、美杉様ですね」
あー椅子フッカフカだわ。
…凝った机ね。
松の木と大理石が最初っから同じ物だったみたいにくっついてる。日本工芸の応用かしら
…これ多分、キャンディーチョコレートとか、ミンミンゼミとかがぶっ壊すんだろうなあと考えると、ちょっと…流石に職人に申し訳ない。
顔には出さないけどね。
ーーーー
コーラシュリンプ第四支部。マウンテンロード
現在良政という名前で忍び込んでいます。笑
「では、こちらに」
受付嬢に言われるがまま、紙に情報を書き込んでいく。
イーゼルクラッシュの全機器に慣れているから少し違和感を覚えてしまう。
いやまあ、二重スパイなんだけど今。
ほんと懐かしい。
なんかこの、石と木材かそこらじゅうに使われてる感じ。
初代当主は本当にこの二つが好きだったんだな。
防犯システムとかは明らかに変わってるし、こんな青は使われてなかったけどね。
装飾センスはこっちの方がよっぽどいい。
「できました」
「有難うございます。確認させていただきます」
シンプルイズベスト。
よく兄さんが言ってたよ。
…いや兄ではないんだけど。
「里恵様。受付が終わりました。」
プイッと顔を背けるホワイトレース。
ついさっきまで俺に殺意を向けていたとは思えないほどの可愛らしさ。
任務終わったら殺されるんだろうな俺。比喩じゃなくてさ
ブラックシルクが泣いたとか言わない方が良かったかな。いやちょっと涙目だったんだよほんとに。
昨日ホテルの部屋で普通に男子3人。俺、シルク、ミンミンゼミで恋バナしてたら様子がおかしくて。
妹のホワイトレースに聞いてみただけでさ
ま、ほんとはブラックシルクが俺を異常に警戒する理由探りたかったんだけだけど。
やっぱりスパイバレ?
だったら組織に即言うだろ
…だったら義眼と勘づかれたか。
義眼なだけで警戒するかなあ?
床にはビビットな青が広がっている。
1人黒服がやってきた。
「美杉様、良政様。お越しいただき有難うございます。」
初老だが背中は曲がっていない。厳格でかつ和の上品さを感じる佇まい
「こちらへどうぞ。」
…多分、第四支部にきたときによくお菓子をくれたおじちゃん。あんまり好きじゃなかったけど。俺のこと覚えてるかな。
懐かしい。戻りたい。
「行きましょう、お嬢様」
今が不満なわけじゃない、どっちかと言ったらうまいこと人生進んでる。
…
仮初で良いから、家族と一緒に暮らしていたかった。
ーーーー
応接間に案内され、ホワイトレースは椅子に座り、俺は後ろに立たされた。
後セクハラジジイが目の前に。
計3人がこの部屋にいる。
「えー、美杉さんですね。」
頬を赤らめる面接官。良い年にもなって気持ち悪い、なんだこの中年ジジイ。
自分に向けられているわけでもないのに見定めるような視線に嫌悪を覚える。
おまけに心なしかくせえし。
「はい、よろしくお願いいたします。」
彼女の凛とした可愛らしい声には悪寒がする。
普段の毒っけがあるもののユーモアで人を笑わせる人当たりの良いとこは微塵も見当たらない。
「私が御社を希望いたしました理由ですか?」
周りの男が勝手に尽くしたくなる立ち回り。
そんなんなくても顔だけで貢いでもらえそうな気がする。いつもヴェールかぶってるっぽいし、あるとないとじゃ周りの反応も全然違うんだろうな。
「はい、そうなんです!御社のそのような企業理念なら、私自身誠心誠意心を込めて、お仕えすることができると思ったんです」
ちょっと頭悪そうなのも計算だろーなー。
…よくこんなバケモンばっかの組織に入ってスパイやってて、バレないよな俺。
当たり前か。俺だもん。
なんかなあ、みてるだけでヒヤヒヤするよこの会話。
「いや、里恵ちゃんほんとにかわいいね!連絡先とか、交換してくれる?なんて」
ほらがちで気持ち悪い。初対面の二回り年下じゃねえかよ。
一歩前に出て、言葉を遮り進言する。
「申し訳ございません。竹内様。身の程は弁えていただきたい」
まあ結果は、採用。
レースは元から合格ラインで、俺が仕事ちゃんとするか見るためにセクハラしたらしい。
キモかったから普通に後で飴チョコとかセミが来る時、羽交締めにでもして殺そうと思う。
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