満員電車。


 すまむる、すまむる、満員電車。


 カトウは、しがないサラリーマンだ。毎朝、お気に入りの帽子をかぶり、駅についたらすまむるを出して、すし詰めの電車に乗って出勤する。


 すし詰めの電車は、人間も、すまむるも、いやなものだ。

 そんな中でも、気張ってすまむるをなでるものもいるが、すまむるをなでるスペースが他人のじゃまになって、いい考えではない、とカトウは思っている。

 さりとて、すまむるを鞄に入れておくのも、いい考えとはいえない。満員電車の中では、すまむるごと鞄がつぶされて、かわいそうだ。すまむるは丈夫とはいえ、つぶされて楽しいきもちにはならない。


 なのでカトウは、頭の上にすまむるを乗せることにしている。頭の上なら、他人のじゃまにはならない。他人の頭に荷物を置く人はいないし、すまむるもつぶされない。

 気がかりは、電車ののりおりのときに、すまむるが頭から落ちないかどうかだ。けれど、これは、専用の帽子を作ることで、解決した。カトウが急に首を90度にかたむけない限り、すまむるは落ちないだろう。

 満員電車からおりた人ごみの中には、カトウ以外のすまむる帽子が、少なからずいた。みな、考えることはいっしょということだ。


 すまむる、すまむる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る