待ち時間。


 すまむる、すまむる、待ち時間。


 電車を待ちながら、ヤベはすまむるをなでていた。

 何かを待つあいだ、人はすまむるをさわるものだ。すまむるをさわっている人は、ヤベの他にもたくさんいる。

 すまむるをさわる代わりに読書などする人、何も持たずぼーっとする人もいるが、少数派だ。


 電車が来た。すまむるをなでていた人々は、すまむるを鞄にしまう。

 すまむるを電車とホームの、あのなんともいえない隙間に落としたら、大変だからだ。駅員を呼ばねばならないし、電車は止まるし、なにより、すまむるがあわれだ。

 そういうわけで、ヤベもすまむるをしまって、電車に乗った。

 ヤベは車内をさっと見回し、長い座席の真ん中の、棒が伸びてる近くに陣取った。そして、鞄の中からすまむるを取り出すと、片手にすまむる、片手に支えの棒を持って、すまむるをなで始めた。

 駅につくまでの待ち時間、すまむるをなでている、とも言える。

 目的の駅が近づくと、ヤベは名残惜しそうにすまむるをしまった。

 電車をおりると、しばらく歩きだからだ。


 ヤベの目的地は、テーマパークだ。人気の場所で、入場するのに、長い行列ができていた。ヤベは行列に並ぶと、さっそく、すまむるをなで始めた。

 テーマパークの中でも、たくさん並ぶだろう。そして、並ぶたびにすまむるをなでるのだ。

 ヤベの一日は、楽しいものになるだろう。


 すまむる、すまむる。

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