追放された元貴族の俺【超合金】で最強の武具アイテムを生成して悪徳貴族を成敗する

桜井正宗

第1話:追放の烙印と落ちた七つの星

「ディンよ。おまえは我が家の面汚し。同じ血が流れているとは思いたくない!」


 父の激しい怒声が、広間に響いた。

 その言葉に、俺は何も言い返せなかった。

 いや、言い返す気も起きなかった。


 辺境伯家の第三子、ディン・アルバトロス。

 帝国でも名高い名門の一角に生まれたはずの俺は、今、己の存在を否定されようとしている。



「…………ッ」


「貴様は本日をもって爵位と家名を剥奪する。今後、貴族を名乗ることも、アルバトロス家に立ち入ることも金輪際禁ずる。追放だ」



 父の宣言に、兄たちはあざけるように笑った。

 母は何も言わず、ただ目を伏せた。

 ああ――なるほど。俺は最初から、この家にとって“失敗作”だったんだな。



「…………そうか」



 口から出た声は、自分でも驚くほど冷たかった。

 怒りも、悲しみも、憎しみさえも、もう通り過ぎていた。ただ、この空虚な家から離れられることに、どこか安堵あんどすら覚えていた。


 見返してやるさ。

 絶対にな。


 ただ静かに背を向け、広間を後にした。

 あの家で過ごした年月が、もう過去のものになった気がした。



 ◇



 ――数日後、俺は隣の辺境の町『カシウス』にいた。

 安宿の、ギシギシと古びた音を立てるベッドの上で、白い天井を見つめる。



「……まさか、ここまで落ちぶれるとはな」



 財布の中身は、銅貨が数枚。

 貴族だった頃は、朝食の菓子一つに金貨を使っていたのにな。けれど、捨てられたからこそ、気づけたものもある。


 この世には、貴族の目に映らない痛みが山ほどあるんだってことを。


 平民の暮らしがここまで過酷なものだとは気づきもしなかった。




 俺は……俺にできることはないのか?




 そう独り言を口にしたとき、外から騒がしい声が聞こえてきた。



『だ、誰かっ!  誰か助けてくださいっ!』



 慌てて窓から身を乗り出す。広場の方で、人だかりができていた。なんだ、騒然となっているじゃないか。


 近づいてみれば、中心にはデブっちょの奴隷商人と檻。その中には――。



 腰まで伸びる長い金髪、純白の肌、ルビーのような瞳。

 その少女の瞳に、俺は心を奪われた。

 彼女には……怒りと、悲しみ、そして、明確な“抗う意思”が宿っていた。彼女は強制的に捕らえられた奴隷だ。



「さあ寄ってみてくれ! メレディウス帝国でも珍しい白い肌の“ダークエルフ”だ! 珍妙な魔法の才あり! 美しさも一級品だ!」



 そう奴隷商人が声を張ると、周囲の冒険者が珍獣でも見るかのようにダークエルフの少女を眺めていた。



「へえ、はじめて見た」「欲しいけどさ、いくらだよ……?」「珍しいから100万だってよ」「は? マジで」「100万ってアルセーヌ金貨15枚は必要だぞ」「だけど、珍しい魔法が使えるんだよな」「パーティに入れてぇ~」「夜は楽しいだろうな」「良いカラダしてるよな」



 周囲の冒険者たちは、彼女をまるで道具か商品みたいに扱っていた。

 胸が、ぐっと締め付けられる。


 なんで俺は、こんな世界ばしょにいる?

 貴族じゃなくなった俺が、なぜこの現実リアルを目の当たりにしているんだ。


 ……関係ない、なんて思いたくなかった。

 これが町やそこらで起きていると思うと、いても立ってもいられなかった。



「おい、そこの奴隷商人! 彼女を解放しろ!」


「はあ? なんだお前は。たいした装備もしてねぇ、貧乏冒険者が! 奴隷を買う金もねぇくせに口出しすんな!」


「……そうか。なら、力ずくでいくまでだな」



 気づけば自然と身体が動いていた。

 道中の護身用に錆びたナイフを持っていたのだ。今の俺にはこれしか武器がない。だが、これは使わない。



「貴様ッ……! そんなもので!」

「このォ!」



 奴隷商人を殴り倒し、鍵を奪い、檻の扉を開ける。



「立て! 逃げるぞ!」

「わ、わたしを……助けてくれるの?」


「ああ! 助けて欲しいんだろ。なら俺についてこい」


「ありがとう。わたしはフィリス……」



 フィリスと名乗った少女の手を引き、俺は路地裏を駆け抜けた。

 追手はあったが、このカシウスの町に来てから裏路地を調べ尽くしていた。裏通りは俺の方が詳しい。何とか撒くことに成功した。



 ◇



 いざという時に決めていた元居酒屋の廃屋に身を潜め、肩で息をしながら、彼女は俺を見つめた。


「……助けてくれて本当にありがとうございます。ところで、あなたの名前は……?」


「ディンだ。ただのディンだ」

「……ディン様。あなたは勇敢なのですね」


 フィリスは微笑んだ。儚げで、それでいて天使のような光を宿した微笑だった。


 ふと、ポケットに重みを感じる。

 奴隷商人を殴った時に拾った徽章バッジだ。あの男が落としたものだった。


 手のひらに取り出してみると、黒い金属に“七つの星”が刻まれていた。



「なんだ、これは……妙な力を感じる。普通のアイテムじゃないな……」



 まるで、運命に導かれるように手に入ったその徽章バッジが――俺の、そして彼女の運命を大きく変えることになるなんて、このときの俺はまだ知らなかった。

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