第4章 「Re:ALIVE - 歩み続ける者たちへ」

第19話 始まりの外で目覚める者


 完成されたはずの世界は、静かだった。


 風は吹き、空は青く、草原は揺れている。

 だが、その静寂の中に、どこか“異物”のような気配があった。


「……クラリス。感じるか?」


 ユウトの声に、クラリスは頷く。


「うん。この世界、“定義されている”のに……“誰かが定義を破ろうとしている”」


 そのとき、大地がかすかに揺れた。

 空に、黒いひび割れのようなものが走る。


 構成視界が自動的に警告を発する。


【警告:定義干渉を検知/非許可構成式を感知】


「これは……誰かが、“外側”から入り込もうとしてる?」


 クラリスが目を見開いた瞬間、空間が破れる。

 そこから現れたのは、漆黒のフードを纏った“男”だった。


 顔は見えない。

 だが、彼の存在そのものが空間に穴を開けていた。


「ここは、選ばれた者の世界だ。

 お前のような干渉者が立ち入る場所じゃない」


 ユウトが剣を抜く。

 だが、男は動じない。


「選ばれた? 違う。

 “お前が定義したから”俺が生まれたのだ」


 その言葉に、ユウトの目がわずかに揺らぐ。


「どういう意味だ……?」


「答えは、“お前の中”にある」


 次の瞬間、男は消える。

 だが、空には残滓のような黒いひびが残っていた。


「……まだ、終わってない」


 ユウトは、空を見上げた。



 空のひび割れは、まるで“侵食”のように広がっていった。


 白で構成された世界に、黒い筋が走るたび、そこに“無”が染み出してくる。


「クラリス、急ぐぞ。奴はまだこの空間にいるはずだ」


 ユウトは構成式を再構築し、空間解析を始める。


【定義解析展開中──対侵蝕遮断式:起動】


 しかし、黒は止まらない。


 むしろユウトの構成が干渉するたび、“男”の影響は強くなっていくようだった。


「おかしい……これはまるで、俺の意志が“奴”を強化しているような……」


 クラリスが何かに気づくように、ユウトの手を取る。


「ユウト……彼が言ってたこと、本当かもしれない。

 あなたの“定義”が生んだ存在なら、あなたが“否定”しない限り、彼は消えない」


「否定……?」


 ユウトは目を閉じた。


 そして、思い出す。


 かつての恐れ、迷い、怒り、拒絶、羨望。


 その全てが形を持ったなら──それは、確かに“影”となって現れるだろう。


「……俺は、あいつを“必要”としていたんだ。負の象徴として。

 だから今まで、あえて否定しなかった」


 拳を握る。


「でももう、それはいらない」


 空に向かって、ユウトは構成式を放つ。


【構成命令:定義解除】


「俺は、“影”を抱えたままでも歩ける。

 もう、“影”そのものに歩かせる必要はない」


 黒いひびが静かに消えていく。


 まるで最初から、そこには何もなかったかのように。


「やっと……世界が、本当に“完成”したね」


 クラリスが微笑んだ。


 空には、再び青が戻る。

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