第2話 ギルドとツンデレと火魔法


 翌朝、ユウトは冒険者ギルドの前にいた。目的は昇格試験の申し込み。


「昨日のスライム狩りで新人卒業……ってわけにはいかないか」


 受付のリリアに挨拶を済ませ、依頼掲示板に目をやる。


 ふと、背後から殺気。


「……浮かれてんじゃないわよ、チート野郎」


 誰かの肩がぶつかる。その瞬間、背後にいたのは黒髪の少女。


「ツン……いや、なんでもない」


 少女は振り返らず、ギルド内の奥へと消えていく。


「クラリスさん……あの人、無口でぶっきらぼうだけど、実力は本物です」


 リリアがフォローするが、ユウトはただ苦笑した。


「テンプレ感、強いな……」


 昇格試験の内容は、小型の魔物“サラマンダー”との模擬戦。


 試験官に案内され、専用の訓練場へと向かうと、そこには既に他の受験者たちが待機していた。


 だが、ユウトの姿を見た瞬間、ざわつきが広がる。


「アイツが噂の……チート転生者?」「昨日、スライム五十体ってマジかよ」


 注目の中、試験官が言い放つ。


「準備はいいか? ユウト=クロノス、君の番だ」


「……ああ、やってみるよ」


 訓練場の中央に立ち、構えもせず、ただ手をかざす。


 目の前には、炎を纏ったトカゲの魔物――サラマンダー。


「《フレイム・バースト》」


 爆音と閃光が響き渡り、魔物は一瞬で蒸発。


 試験場は静まり返る。


「……うん、まあ、こんなもんかな」


 ユウトのつぶやきが、誰よりも響いていた。



 サラマンダーを一撃で蒸発させたユウトに、試験官がぽかんと口を開けていた。


「え、ええと……試験、合格。いや、審査不要……てか、何これ?」


 彼の後ろから見ていた冒険者たちも、口々に呟く。


「やべぇ……本物だ、あれ」「無詠唱、あの威力……あいつ、人間なのか?」


 ユウトは肩をすくめ、ギルドの建物へと戻る。


 そこには、いつの間にか先回りしていたクラリスの姿があった。


「見たわよ、さっきの」


「ほう、それは光栄だな」


「……あんたのやり方、気に入らないのよ」


「やり方? 俺、火の玉ぶっ放しただけだけど?」


 クラリスは睨みつけるようにして詰め寄ってきた。


「強すぎるやつがのさばると、世界が歪む。……私はそれが、嫌い」


 その言葉に、ユウトの表情が一瞬だけ変わった。だが、すぐに笑みに戻る。


「そういう考え方、俺は嫌いじゃないけどな」


 その日の夕方、ギルドの掲示板で『合同演習試合』の告知が出される。

 初級・中級冒険者たちの模擬戦を通して、実戦感覚を学ぶ訓練イベント。


 参加者には、ユウトとクラリスの名も含まれていた。


「ちょうどいい。力を見せてもらおうかしら、“チート様”?」


「へいへい、お手柔らかに頼むぜ、“ツンデレ様”」


 試合は三日後に開催される。


 だがこの時ユウトは知らなかった。


 この“演習試合”が、世界のルートに微かな“ほころび”を生じさせる、最初の分岐点になるということを。

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