#42 それぞれの思い

「あれがパインシードの街であるぞ!」


「あれがパインシードの街でござるか~!」


街が見えてくるのを柵のない屋上の端で座って待っていると、

白色をした壁の建物と南国っぽいヤシの木っぽい植物が相まって、

想像していたアジアの南の島よりかは地中海の海沿いみたいな雰囲気の街が見えてきた。

ギリシャとか?イタリアにあるナントカ島とか?

例によって行った事はないので雰囲気で話してるけどね!

地中海にヤシが生えてるか知らないし!


「それでは街の入り口付近に着陸致します」←城内アナウンス


「こんな城を街に近づけちゃだめー!」


「そうなのですか?こんなとはどんなでしょう?」


「今回も敵意がないと思われるかはわかりませんし」

「空飛ぶ城が近づいてきたら大騒ぎになって乗り込んでくる人も居るかもしれません」


「不法侵入者は消すまでですが」

「確かに騒ぎを起こすのは良くありませんわね」


「城は上空に待機させ我々のみ転移して街へ行くのは可能であるか?」


「目視できる距離でしたら可能ですわ」


「では転移を頼むである」


「いつもお世話になります!」


転移の嫌な感じを覚えた次の瞬間、少し歩けば街に着く距離の所に居た。

今回の街は城壁で囲まれてなくて番兵的な人も居ない。

港町っぽいから人の出入りが多くて管理を諦めたのかもしれない。

治安が悪かったらやだな。


街に入ると活気があって街行く人も一般人らしく武器を携行していないから、

前の町より明るい雰囲気。

入口から海まで続くメインストリートには、お店が沢山あってなんだか楽しく、

治安の悪さなんて感じなかった。


「うむ!浜辺はこちらのようであるな!」


「はい!行きましょう!」


「…?」

「ギルドはこちらですことよ?」


「えっ!」(遊びに来たんじゃなくてギルドに仕事探しに来たんだった!)


「ふむ…」


その一瞬、俺とガルさんの目が合った。

そして俺達は理解した、遊ぶのは後だと。

先に遊びに行きたいとソレユさんを説得するのは難しそうだと!


「ネオ殿…ここはひとつ…」


「はい…戦略的撤退…ですね」


「なにを訳の分からない事を仰っているのですか?」

「ギルドはすぐそこですわよ」


パインシードの街の冒険者ギルドは、

前と打って変わり街の規模の割には小ぢんまりしていて、

その建物はボロ…ゲフンゲフン、時を重ねた趣のある佇まいだ。

なんでも北方に魔物がでやすい一方で南方では出にくいので、

南方に位置するこの街では冒険者の活動が活発ではないからだとか。

平和過ぎて依頼がなかったりしないといいけど。


「なんで南の方にダンジョンのい…出口を作らないんですか?」


「温暖な地方は地上人が多く住んで居られるからです」


「人が多いと見つかって倒されちゃいますからね」


「いいえ、地上人を怖がらせないようにとの配慮ですわ」


「優しさ!」


「すべての魔族に地上人への敵意はありませんのよ」


「はい!それを広めに行きましょう!」←早く用事を終わらせて遊びたいから話を切り上げた


ギルド内部は石造りというか、なんていうんだあれ、

モルタルみたいなやつで造られていてヒンヤリ涼しい。

そんなことより!毎度お楽しみ今回の受付係さんは!!!


…気温が高い地域のせいか薄着のお姉さんなのは良いんだけど、

むしろすごく良いんだけど、なんだろう、この負のオーラは!?

俺も魔力を感じられるようになったか!?


「は~~~あぁぁぁぁ……」


(受付係の人すさまじい溜息ついてるー!)


「ソレガシはガンガガル=ガルッダという者であるが依頼を受けに参った」


いつものようにガルさんが受付係と話している。

依頼を受ける前に例によって伝言やらがないか確認すると、

ガルさん宛てに家族から手紙があったみたい。

自分宛の物をどこのギルドでも受け取れるのは、

きっとなんか魔法で良い感じにシステム化されてるんだろう。


「依頼であるが、なるべく人目を引く派手なのはないか?」


「派手なの…ねぇ…ここ、あんまり依頼ないのは知ってるよね?」


「うむ!南方は魔物が少ないであるからな!」


「はぁ…ちょっと、ごめんなさい、声小さくしてもらっていいですか?」


「了解した!」←デカい

「…こんなものか?」←普通


「うん…じゃこれ…あぁ、魔力ないからデータだと見らんない…」

「そこの派手な女の人、代わりに見てよ」


紙に書いてないデータだけの依頼があるみたいで、

データが一体どこに記憶されているのか色々と謎なのはともかく、

いつものあの方式で依頼を検索してソレユさんが確認している。


俺もガルさんも魔力がないのでソレユさんが選ぶしかないんだけど、

何を選ぶか非常に不安だ。

あのSFインターフェースだけでも見られるようにならないかなぁ…。


「…これに致しますわ」


「どんな依頼なのであるか?」


「海賊を懲らしめる依頼ですの」


「ふむ…勝手に航行料を徴収したりして住民を苦しめている海賊が出るのだな」


「ではこれで」


「ちょっ!ちょっとまって!」

「相手の規模はどのくらいで、拠点がどこにあるんですか?」


「海賊が拠点にしている島があって海賊船は5艘」

「構成員は100名前後…だそうです」


「大海賊団だ!」


「私に考えがあるので大船に乗った気でいて下さいませ」


「それは頼もしいな!どんな策であるか楽しみであるぞ!」


「ど、どんな作戦なんですか?」


「ふふふ…」


(一体どんな…)


「現地についてからの、お・た・の・し・み、ですわ!」


「ソレユ殿は勿体ぶるな!わはは!」


(あぁ…ドラゴンの時以来の巻き込まれを感じる)


「はい…じゃ、これで受注しときますね…」

「はぁ…」


(受付の人また溜息付いてる!俺達のノリに呆れてるのか!?)


「所で受付のお嬢さん?」


「はい、まだ何か?」


「随分と毒が回っているようでお辛そうですね」


「毒?あぁ…これ毒ですね」


「よろしければ解毒して差し上げますわ」


「そんな魔法使えるんならお願いします」


ソレユさんは何か魔法を使う的な動きはしなかったけど、

受付の人は一瞬淡い光に包まれた。


「ほ、ほんとだ…スッキリしました!」

「ありがとうお姉さん!」


「ソレユ殿はこう見えて魔族なのだ」


(ガルさんそれは魔族の誤解を解く手助けなの!?)


「ありがとう魔族のソレユさん!」


(魔族だってすんなり受け入れてる!)


「礼には及びませんわ」


「また飲みすぎたらお願いしたいな!」


「毒ってアセトアルデヒド二日酔いの原因物質かよ!」


「ネオ殿の世界では二日酔いの事をアセトアルデヒドと言うのであるな!」


「あ、それは違います」


「おお!違ったであるか!」

「ソレガシの知識もまだまだであるな!わはは!」


こうして魔族の誤解がほんのちょっと解けたのち、

俺達は海賊島へ向かうべく城へ戻ったのであった。


「ソレユさん、本当に平気なんですか?」


「なにがですの?」


「えーと…」


俺は説明を諦めた。

ソレユさんは100人の海賊相手にどう戦う気なんだろう?

無双?魔族無双?

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