第29話 ヘチマ

母とのドライブの途中、ふと目に入った畑の大きな黄色い花。


「あれ、ヘチマの花じゃない?」と母。

「いや、キュウリじゃない。今どき、ヘチマなんて育てないでしょ」

でも確かに、キュウリの花よりも大きくて、花の黄色も濃い気がした。


母は昔、ヘチマたわしを作ったことがあるという。

ヘチマの皮を剥き、種を取ったら、水につけて腐らせる。

腐ったヘチマを洗って、残った繊維を乾燥させれば、たわしの完成。

「いやいや、そんなに簡単じゃないから」

繊維を洗い出す際の腐敗臭はすさまじく、その作業は母の記憶に深く刻まれているようだった。


そんな話をしながらも、ドライブの目的地、隣県の野菜売り場に到着。

母はそこで、数日取り忘れたような大きなキュウリを購入した。


「キュウリじゃなくて、これはもうウリだね。うりもみにしてやるわ。出してやるでちゃんと食べなよ」

母ちゃんは、いつもこんな口調で僕にものを食べさす。

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