第22話
今日も訓練場の隅でフレイさんとファイアボールの訓練を行った。
フレイさんの体温は高く、会ったころより色気が増していくように見える。
私は恋をする事でおかしくなっているのかもしれない。
でも良い事もあった。
食堂で私がフレイさんの隣に座るのが当たり前になった事だ。
今もフレイさんの隣に座る。
フレイさんは色気を増した吐息でため息をついた。
その仕草がたまらない。
でも体調が悪い可能性もある。
具合の悪そうなフレイさんに興奮する私はやはりおかしいようだ。
変態を消そう。
紳士に、ただ紳士にフレイさんと向き合う。
「フレイさん、無理をしてはいませんか?」
「え? 大丈夫よ」
「ですが、顔が赤いように見えます。あまり炎の魔力を体に流し過ぎると体に負担がかかります」
遅れて来たブレインネルさんが席に着いた。
「ブレインネル、どうしたの?」
フレイさんの言葉でブレインネルさんをみんなが見た。
その表情は冴えない。
「実は、シンシにお願いがあって」
「何でしょう?」
「もう一回、レッドテンタクルのダンジョンに付いて来て欲しいの。皆も協力して」
「私は構いません。ただ、理由を教えてください」
「ええ、ありがとう、彼の、クラフと私の噂が広まって媚薬が売れたの」
「アクセサリーなんかもたくさん売れたのよね?」
「ええ、でもその後に媚薬が買いに来た人に売り切れた事を言うと、怒る人がいるのよ。それが時間差で何度も何度も。クラフは時間があれば錬金術で何かを作っているわ。人が来るたびに作業が中断されて困っているの」
「錬金の工程によっては作業が中断されると完成品の品質が下がります。名が売れたのはいい事ではありますが、今はあまりいい状況ではありませんね」
「そうなの、それにレッドテンタクルの体液袋の依頼を出しているけど誰も受けてくれなくて」
「レッドテンタクルのダンジョンはパーティーが連続で解散に追い込まれた過去があります。偶然が重なったとはいえ、冒険者はゲンを担ぐ人も少なくありません。実態以上に不遇ダンジョン扱いをされています」
「でも、酷い話だわ、自分では素材を行きたくないけど媚薬は欲しいだなんて」
「フライに頼む事も出来ますよ」
「ダメよ、彼は3強よ。何度も頼むのは悪いわ」
「……」
「分かりました。行きましょう、それと、クラフは冒険者としても優秀ですよ」
「どうして、自分で取りに行かないの?」
「クラフはハンマーで戦います。ハンマーでレッドテンタクルを攻撃すれば体液を浴びて強壮状態になります。そこで倒せればいいんですが、効果が切れた後体力が落ちます。倒せても連戦には不利です」
「相性が悪いのね」
「はい、それとクラフは自分だけで出来ない事を自分からやろうとは言いません。なのでクラフも連れて行きましょう」
クラフの家に行くとクラフが看板を立てた。
『媚薬の材料を手に入れる為休業中』
「まめですね」
「後から何か言われるかもしれないからな。だがこうして今何をしているかが分かれば後で文句を言われにくくなる」
「媚薬を買いに来る人は冒険者が多いですか?」
「半分以上はそうだ」
「そうですか、もしレッドテンタクルのダンジョンにモンスターがたくさんいれば荒稼ぎが出来ますよ」
「はっはっは、そうだな、行こうぜ」
私はクラフ、そして白い雪玉の3人でレッドテンタクルのダンジョンに向かった。
【レッドテンタクルのダンジョン】
「クラフがいるなら皆さん大丈夫だと思いますが、最初だけ一応見させて下さい」
「分かった。確認だが俺は危なくなりそうな時だけ攻撃すればいいんだよな?」
「はい、それでお願いします」
レッドテンタクルが2体現れた。
「2体同時!」
「任せろ!」
クラフが走り出す。
「おりゃあああああああ!」
レッドテンタクル1体をハンマーで吹き飛ばした。
「す、凄いわ!」
「凄いです」
「クラフ、あんなに強かったのね」
「だが、あれは苦手だ。攻撃すればするほど体液を被る。それよりもフレイ、そっちに行ったぞ!」
「ファイアボール!」
フレイさんは杖にまたがって飛びながら魔法で攻撃した。
パンツを下から眺める。
「フレイさん、いいですよ、ファイアボーるでもかなり攻撃が効いています。体制のある敵を相手にそこまで戦えるのは大したものです」
「アイスニードル! アイスニードル! アイスニードル!」
レッドテンタクルが攻撃を受けて動かなくなった。
「ブレインネルさんも腕を上げましたね」
「ええ、慣れてきたわ」
「実践を通してアイスニードルの威力も上がっています。ではクラフ、私は奥にいるレッドテンタクルを倒してきます。2日か3日ほど皆さんをお願いします」
「おう!」
私はダンジョンの奥に走った。
荒稼ぎをさせて貰います。
【フレイ視点】
クラフが来てからレッドテンタクルの狩りが安定した。
私達が危なくなるとクラフがレッドテンタクルをハンマーで弾き飛ばす。
でも、何度も何度も体液を浴びていた。
そして倒したレッドテンタクルをクラフが雪玉を転がすようにダンジョンから出す。
その時もクラフの体に体液がかかっていた。
解体も全部クラフがやった。
そしてまたレッドテンタクルのダンジョンに戻る。
クラフは大きなバックパックを背負っている。
かなりの負担だろう。
それでもクラフは動き続けた。
みんなでキャンプをする。
「張り切り過ぎて、疲れた」
「クラフはよくやっているわ」
「好きな女の前で男は格好をつけたがる、俺もはしゃいでいたのかもな」
「クラフ……」
2人が見つめ合う。
「せめて食事は私達が作りますから。今日はゆっくり休んでください」
「ありがとうな。協力してくれて、1人じゃきつかった」
「テントが2つ、1つをブレインネルとクラフ、1つと私とニナでいい?」
「そうね、そうしましょう」
「なんだか、ムラムラしてきた」
「クラフ、今は我慢しましょう」
「そうだな、はっはっはっは」
私達は夜に交代で見張りをする事にした。
フライシャドーかシンシがいれば寝ていても周囲の様子が分かる。
でも今はどちらかが起きて見張りをする必要があるのだ。
ニナと一緒に焚火を見つめる。
ブレインネルとクラフのテントで物音が聞こえる。
ブレインネルが普段出さないような声を出して、2人で1つになっている。
「聞こえます」
「そ、そうね」
「ドキドキします」
「そうね、私も落ち着かないわ」
「帰ったら、媚薬を買ってフライと、シマす」
「え、ええ。良いと思うわ。2人は休ませて、私とニナの交代で見張りをしましょう」
「いいと思います」
「私が起きているわ。ニナ、少しでも寝ましょう」
「分かりました。後で起こしてください」
「ええ」
私はテントに入るニナを見送った。
ニナにいい人が出来た。
ブレインネルもいい人が出来た。
ブレインネルにいい人が出来たのは意外だった。
ブレインネルは恋愛のお話には興味があってもさばさばしていて恋愛に興味が無いように見えた。
でも今のブレインネルは獣のように、あんな声を出して……
3人でこのダンジョン都市アルトエッセンに来て、私だけいい人がいない。
焦ってしまう。
みんなこんなに早く恋人ができるなんて。
シンシの顔が思い浮かんだ。
ムラムラして、眠れそうにない。
シンシの事を変態なんて言えない。
私の方が我慢できなくなりそう。
その日私は日が昇るまで見張りを続けた。
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