第3話

【フレイ視点】


 私は昔の事を振り返るように話を始めた。

 そう、あれは私が学園にいた頃の話。



 この都市、ダンジョン都市アルトエッセンに来る前の私は寒さの厳しい北の田舎、ブルーフォレストで育った。

 冬になると一面に見える森が白く染まる故郷。

 その景色と自然が好きだった。


 学園に通い魔法使いの訓練を重ねた。

 得意な魔法は属性変換のいらない基礎の操作魔法。

 そして炎の魔法が得意だった。

 30代ほどの先生が私のファイアボールを見つめる。


「う~ん、この学園の中であなたは優秀だわ。でも都会にいけばもっとうまく炎魔法を使える。そういう人がたくさんいるの。先生が炎の魔法をもっと使えればいいんだけど、ごめんなさいね」


 田舎の学園は小さくて先生の数も少ない。

 得意な属性や武器の扱いを学べない事もある。

 でも先生からは基礎を十分に教えて貰った。


「十分上達しました。先生には感謝しています」


「あなたなら、良い先生に巡り合えばもっと上達出来るわ。学園にいる間は次の魔法を覚えずに基礎を固めた方がいと思うの。もちろんその気になれば初級魔法以外の炎魔法も使えるようになるとは思うけど」

「はい、基礎を学びます。もし学園を卒業してもっと学びたい場合はどこがお勧めでしょうか?」


「南のダンジョン都市アルトエッセンがいいと思うの。冒険者をいつも募集していて冒険者に優しいのもあるけど、アルトエッセンの3強は聞いた事があるかしら?」

「はい、剣聖スラッシュ、シーフマスターフライシャドー、そして賢者グランロードですね?」


「そう、あなたは賢者グランロードの元で学ぶべきよ」

「賢者、グランロード」



 ◇



 剣聖スラッシュが笑いながら話を始めて言葉が中断された。


「ふ、剣聖スラッシュ、俺も有名になったもんだぜ」


 シーフマスターのフライシャドーがスラッシュに言った。


「剣聖、今フレイが、話をしている」


 そう言いながらナイフで魚をつついている。

 魚の骨が綺麗に端に寄って魚を食べ始めていた。


「大事な事だろうが、俺は剣を極めた。金があって家もある。もう嫁を探すだけだ。お前には負けないぜ。フライシャドー」

「……お前に、負ける気はしない」

「いえいえ、もしかしたら私がフレイさんと結婚するのが先かもしれませんよ」


「変態紳士に負ける、それは流石に無い。絶対に無い」

「……シンシ、見た目は、いいんだ、変な事は、言わないように、しろ。話はそれからだ……フレイ、悪かった、話を、続けてくれ」


「え、ええ。それから一緒にパーティーを組んでくれる人を探して5人連続で断られたわ。でも地元に残る事を決めていた友達2人が一緒に付いて来てくれたの。1人目が同じ魔法使いのブレインネル・レインボーグラスよ」


 メガネをかけたパーティーメンバーの女性が言った。


「私も本当はここに来たかったのよ。王都ほどじゃないけれどここは都会でしょう?」


 ブレインネルさんは落ち着いた雰囲気で黒目黒髪に赤いメガネが特徴的だ。

 灰色の魔女服を着ていて腰に携帯用の杖を装備している。


「もう一人がヒーラーのニナ・ダウンよ」


 ニナさんは背が小さく白いフード付きのローブを装備している。

 フードには猫耳が付いていて可愛い猫の顔が舌を出す絵の刺しゅうが施されている

 右手中指の指輪を装備していた。


「フレイちゃんだけだと心配でしたから」

「3人は、学園の同級生、か」


「ですです~」

「うむ、みんな、やさしいな」

「えへへへへ」


 ニナさんがフライシャドーさんの言葉で照れる。


「それは長旅ご苦労だったな」

「フレイさんの優しさが優しいブレインネルさんとニナさんを惹きつけるに至ったのですね。寒い北の地から妖精のように現れたフレイさんが暖かい炎の魔法を使う様子を想像すると生まれたままのフレイさんにそっと抱きしめられるようなぬくもりを感じて心が温かくなります」

「紳士、お前はフレイの前では黙ってくれ」


「……とは言っても馬車でここまで来たわ」

「おや、無視ですか、ふぐふぐ」


 スラッシュがシンシの口を抑える。


「この街は本当に大きくて驚いたわ。街に入る前から白くて四角いお城のように大きな建物があって、街を見つめると背の高い建物が見えて、特にこのギルドは大きく感じたわ。ギルドの中に酒場と食堂の他にも、宿屋も、武具屋さんも、アイテムの売店も、入浴も全部揃っていてこことダンジョンを往復すれば暮らしていけるんだもの。最初に食べた料理がおいしかったわ」


「ええ、私もニナもウインナーのおいしさには感動したわ。パンと挟んでも美味しくて、肉野菜スープに刻んで入れたウインナーもダシが出ていてスープがおいしいの」

「初めて食べた時は、衝撃でしたあ」


 この都市アルトエッセンの名物はウインナーだ。

 ギルドでもよく食べられている。


「……」

「おい、紳士、下ネタはやめておけよ」

「ふ、俺にも、おかしなことを、考えているのは、分かった」

「何も言っていませんよ」


「その笑顔を見れば分かる。どうせフレイが初体験するウインナーを食べる様子を見たかった。下のウインナーをしゃぶって欲しい、そう考えているんだろ? がっはっはっはっはっは! だから紳士に恋は無理なんだ、お前より早く俺が嫁を見つける」

「……」

「ふ、紳士、言いたい事があれば言っていい、スラッシュの下ネタもたいがいだ」


「フライシャドー、お前にも負けねえぜ」

「前を、見ろ、3人が、呆れている」

「おま、自分だけは違う空気を出すなよ! お前だってニナを狙ってるんだろ」

「……恥ずかしい、事を、言うな」


「え? そう、なんですかあ?」

「あまり、見つめられると、恥ずかしい。話を、続けてくれ」


「……話を続けるわ。この街は良い街よ。1年間ギルドで訓練が無料、1年間ギルドの宿屋を安く借りられる、でも、次の日、ギルド地下にある訓練場でシンシの事で注意を受けたわ」


 私の話で全員がシンシを見た。

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