モドルナ

@TOUGYU

第1話 始動開始

 いつからだろう。人々の顔から、まるで仮面のように表情が消えたのは。

 笑い声も怒鳴り声も、街から一斉に消えたあの日から世界はずっと静まり返っている。誰も悲しまない、誰も叫ばない。ただ、平然と生きているだけだ。

 私もいつか、ああなるのだろうか。

 怖い。怖くてたまらない。−この世界で「怖い」と感じること自体が、異常なのかもしれない。


−1年前ー


 「おーい、はると。おうち帰るよ!ママがおうちではるとの好きなオムライス作って待ってるってよ。」と声をかけると息子は乗っていたブランコを飛び降り、走ってこっちに向かってきた。手を繋いで公園から5分ほどの道を2人で歩いて帰って行った。

鍵を開けると、チキンライスとバターのいい匂いが鼻の奥まで香ってきた。

手を洗い、ダイニングに向かうとオムライスとサラダ、スープと美味しそうな料理が並んでいた。「いただきます!」と料理に手をつけた瞬間、携帯がなった。

田中警部補からの電話だった。「夜遅くにすまんな、事件が起こった。すぐに現場に来て欲しい。」私は、すぐに支度を整え現場に向かった。


 現場に着くと男女の遺体が隣同士で横たわっていた。その横には被害者たちの娘であろう五歳ぐらいの女の子が立っていた。女の子は両親が殺されたショックで固まっていた。すると田中警部補からこの子を『モドルナ研究所』に連れてってくれ。と言われた。

 『モドルナ研究所』とは、最近大企業へと発展した会社で精神的な治療を行っている会社だ。数ヶ月前から警察と連携を組んでおり、遺族の悲しみを取り除き明るく人生を歩めるようにしてくれる場所だと聞いている。原理はわからないが、前に同僚が遺族を連れて行った際に暗い表情をしていた全員が数分ほどで何事もなかったように微笑んで帰ってきたという話を聞いたことがある。それを聞いた私は、少し不気味に感じていた。


 『モドルナ研究所』に着き、中に入っていくと綺麗な制服姿の女性が2人並んでいた。「初めまして、近藤刑事。田中警部補からお話を伺っております。どうぞ奥へお進みください。」案内されて奥に進むと、2人がけの白いソファーが4つ並べられていた。ソファーに腰をかけると、従業員の方が女の子に水の入った紙コップを差し出した。「これ飲むと少し落ち着くから」と言われ、女の子は水を飲み一息ついた。

 すると、従業員は女の子を連れて奥の部屋に入って行った。私は、受付の方へ行き尋ねた。ここでは何が行われているんですかと聞くと、「ここでは、家族を失った方や自殺志願者、精神的な病気がある方が治療に来られる場所です。治療法に関しましては口外禁止なので…。申し訳ございません。」と言った。

私は警察官になってから、いじめを機に自殺してしまう子や精神的理由で人を殺めてしまう人がいる中でこの治療を受ければ犯罪も少しは減るのではないかと考えた。そしてふと、口に出してしまった。「その治療法で犯罪を犯す人も居なくなりそうですね笑」と冗談混じりで言った。すると女性は、ハッとした表情をしてから笑みを浮かべて「とても素晴らしい案ですね。社長に伝えてみます。平和な世の中になって欲しいですもの。」と言われ、私は少し嬉しくなり、ぜひお願いしますと軽く言った。


 ちょうどその時、「無事治療が終わりました」と従業員と一緒に手を繋いで出てきた女の子はさっきと表情が変わり微笑んでいた。私たちはお礼を言って、警察署へと戻っていった。警察署へと向かう最中、話しかけても彼女は微笑むだけだった…。


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